☆ 妖狐×僕SS

□眠れぬ夜
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カチャ…。


『双熾くん…?』


あたしは小さな扉を開けて、中の様子を伺う。
奥にぼうっとした優しいオレンジの明かりが灯っているのが見えて、時折本のページをめくったり、食器のカチャという音が聞こえた。
あたしは少し躊躇った後にその小さな扉を閉めて、明かりの元へとゆっくり歩んでいく。


『双熾くん…。』
「花様?」


やっぱり、いた。
この間も眠れなくてロビーに行こうとした時、彼がこの書斎室にマグカップを持って入っていくのを見かけたので、彼の居場所を突き止めるのに時間はそう要らなかった。
眼鏡をかけた双熾くんがあたしに気付くと、すぐに4足のイスから立ちあがって駆け足でこちらにやってきた。


「どうなされたのですか?」
『いや…眠れなくて…。』
「それはいけませんね。明日は学校もあるでしょう。今ホットミルクを持ってきますから。」
『うん。』


双熾くんはワイシャツ姿でそのまま書斎室を後にした。
今まで彼の姿で見えなかった机の上に開かれた数冊の本と、まだ入れたてのコーヒーが目に入った。
なんか…邪魔するのを承知で声かけちゃったけど、すごい罪悪感…。


そんなことを考えているうちに、双熾くんはホットミルクの入ったうさぎのマグカップを持ってきてくれた。
受け取った瞬間に手から全身に熱が伝わっていく。


「どうでしょう?」
『うん、温かい…。』
「悪い夢でも見たのですか?」
『ううん、ただちょっと長くお昼寝しちゃっただけ。』
「!申し訳ありません。ご夕食の時間には起きていらしたので、気づくことができませんでした…。」
『いいよ!ただ今日暖かかたから眠くなっちゃっただけ!』
「そうでしたか…。申し訳ありませんでした…。」
『双熾くん謝りすぎ!だったらさ、1つ教えて?』
「はい…。なんでしょう?」
『どうして、双熾くんはいつも夜寝ないの?』
「それは、花様を、お守りするためですよ。
妖館は常に外敵から狙われていると言っても過言ではありませんから、誰かがこうしていつでも戦闘態勢に入れるようにしなければなりませんからね。
ましてや花様に襲うような者などは、絶対にここに入れない様にしなければ…!」
『でも、そしたら双熾くんの身体が…!』
「花様、何度も申し上げているように、僕たちの身体は普通とは違って丈夫にできていますから、そのような心配は御無用です。
ですが、そのような僕にはもったいないお言葉…!
本当に、心から感謝致します。」
『おおげさな…。』


双熾くんはまたその場に跪いて、あたしの手を取り本当に犬ような潤んだ目で言葉を紡ぐ。
彼にこうしてもらう度に、あたしの心は落ち着きを取り戻していく。
……そうか、彼はあたしの心を…。


『双熾くん!』


あたしはそのままあたしを見上げる彼に言った。


『あたしの部屋に来て…。あたしが寝るまで、傍にいて。』
「…!……お気持ちは嬉しいですが、僕にはそのような権利は…。」
『いいの!命令だよ!あたしが安心して眠りにつけるまで…。お願い!』
「そこまで言うのなら…。」


無理言ってるのは分かってる。
一般的に考えたって拒むのは当たり前だけど…。
今は彼の温もりを心を、異常に欲しがってるあたしがいる。


双熾くんは先ほどまで読んでいた本を片手に、あたしに腕をひっぱられるがままに部屋へと向かった。





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