☆ 妖狐×僕SS

□携帯
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「花様!」


校舎を出ると、まだ帰宅の生徒が少ないせいかすぐに彼の姿が目にとまった。
彼は心なしか、いつもよりもハキハキしているようにも見える。


『ただいま。』
「お帰りなさいませ。花様!先ほどは心温まるお返事ありがとうございました!」
『うん、なんかメールたくさんきてたし、1度くらいは、思って。』
「…!!」
『まっ、犬のご主人さまとして妥当かなって!』
「花様…!」


あたしは顔を45度あげて彼を見上げながら冗談交じりにいばってみせた。
すると双熾くんは目を大きく開いた後、すぐにその場に跪き、あたしの鞄を持って手を取り、それを自分の口元へと寄せた。
急に心臓が早く脈を打つ。


「たとえその言葉が偽りだったとしても、その様なお言葉を頂けてとても嬉しいです!
これこそ僕の生きる意味なんだ…。と。」


下を向いていた彼がぱっとあたしを見上げた時。


あたしには確かに見た。



彼の蒼い瞳から一粒の大きな滴が、白い肌を走っていくのを。



『双熾くん…!な、泣かないで…!』
「いえ、申し訳ありません…。ただ、嬉しくて、つい…。」


あたしは彼にハンカチを出して、涙をぬぐった。
一度双熾くんに軽く拒まれたが、あたしはそのまま彼の目元に溜まった涙を優しくぬぐう。


「でも、少し情けないです。」
『?』
「機械に頼って、やっと花様に認めてもらえたんだな、と思うと、なんだか自分が情けないです。」
『双熾くん、違うよ。』
「…え?」
『双熾くんがあたしのシークレットサービスになってから…。』
「…!」
『双熾くんはあたしの傍にいなくちゃいけない、そんな存在になってると思う。』
「…!!!花様…!」
『だから、あたしと連絡の取れる、そんな機械とじゃなくて…。』
「花様のお傍に…!ずっと…!ずっといさせて下さい!」
『…うん。当たり前だよ。』


また、彼の瞳から大粒の滴がこぼれる。
あたしがそんな彼を見ると、彼は少し恥ずかしそうにして、笑った。


一緒に、笑った。


きっと、こんな時が永遠に続くんだろうなって。
彼の言った通りだ。
これはある機械が作りだした機会で、確かに少し寂しい気はしたけれど。
いいの。
これで、また一つ、彼と分かりあえることができたら。




帰路の途中、鞄の中に入ったあたしの真新しい携帯は最後の力を振り絞って一度バイブしたきり、めっきり動作しなくなり、長い眠りについた。








end.

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