☆ 妖狐×僕SS

□はじまり
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ふかふかのベッド…
白い部屋…
部屋を照らす真新しい照明…




ぱちっ。



『気を…失ったのか。』


重い瞼を開くと同時に、少し離れたところから何かをぐつぐつと煮ている音と、食器と食器の接触する音が聞こえてきた。



『ここは…。』
「…!花様!」


その音がした方から人の気配を感じ、そちらへ目を向けると、そこからスーツ姿の彼が駆け足でやってきた。


「体調はどうですか?」
『うん。…だいぶ。』
「よかった。」
『ええと… みけ、みけつ?』
「みけつかみ そうし です。」
『御狐神さん。ここは?』
「ここが、花様の今後しばらくの住居です。」
『つまり…[妖館]。』
「はい。」


彼は先ほどと変わらぬ笑顔で、あたしの上半身を起こした。


「あまり長い時間寝込んでしまうと、夜眠れなくなってしまいますから。」
『…。』
「何かお召し上がりになられますか?元気が出るように、おかゆを作ったのですが。」
『じゃあ…。いただきます。』
「はい!」


御狐神はあたしのそっけない対応に関わらず、一度も顔を歪めずにまた部屋の奥に消えて、小ぶりのなべと小皿をおぼんに乗せて持ってきた。


「熱いですから、お気をつけて下さいね。」
『…はい。いただきます。』


あたしは小皿に少量のおかゆをよそってもらい、スプーンでそれを取り上げ、息を2、3度吹きかけ口に運んだ。
不思議…。
どうしてただのおかゆなのに。
こんなに心が、身体が温まるんだろう。


『美味しい…!』


思わずこぼしてしまったあたしの言葉に彼はクスッと笑って、まだありますから。とほほ笑んだ。


『御狐神さんは、いつも料理するんですか?』
「はい、たまに。もしかして…お口に合いませんでしたか?」


おかゆに口が合うのか、合わないかは、純粋に困った顔をする彼を見て、つっこまないことにした。


『いや、凄くあったまるなぁ。と思って。』
「よかった!花様からそのようなお言葉をもらえるなんて、僕は...僕はなんて幸せ者なんでしょう…!」
『いや、それはおおげさじゃ…。』
「いえ!」


彼は急に距離を縮め、あたしの手をぎゅっと握った。
やっぱりとても奇麗な顔立ちで、なんだかこっちが恥ずかしいや…。
というか、何故ここまでオーバーリアクション??


「僕は花様の犬なのです!」
『い、いぬ!?』
「はい!花様をお守りし、お世話をし、それが僕の生きている意味なのです!」
『いや…。そんな、言いすぎだよ!それに、まだ初対面ですし…。』
「関係ありません!これは、次元を越えた運命の出会いですから!」


どんどんとトーンが上がっていくと同時に思考を逸れていく彼の声が部屋中に響く。
この人って…
世に言う、極度のMなのか?


「それに、僕に対して敬語など使わなくてもよいのですよ。僕は花様と同等の位ではないのですから。名前の呼び方だって、もっと崩していただいたって構いません。」


う〜ん、御狐神さんに犬耳とブンブンと横に振る尻尾が生えたように見えるんだけど、これは幻覚ってことにしていいのか?
あたしは目を彼から反らして、う〜ん。とうなった。


これが…
噂のシークレットサービス?


これからどんな生活が待っているのか、全く想像なんてできないけれど。
でも、そんな噂の中で生きていくのも日常と違っていい刺激になるのかもしれない。
それに、家に帰ったってお父さん、お母さんは…
いない。
でも、ここにいたら。
シークレットサービスと一緒にいれたら、何か分かるかもしれない。
それに、あたしにとても良くしてくれてるみたいだし、害はなさそう…。


あたしはもう1度彼を見た。
相変わらずあたしの小皿を持つ手を離そうとはしない。


『ふふっ。じゃあ…。本当にあたしの犬になるの?』


半分冗談交じりで言ったつもりだったが、彼はさらに一層目を輝かせて、はい!と頷いた。


『じゃあ…御狐神双熾だから…。これからは双熾くんね!』
「…!はい!命名ありがとうございます!一生この名を忘れません!」


そして、あたしの[犬]はまたにっこりと嬉しそうに笑った。


変な人…。


でも。
今までとは違う面白い生活が送れるかなって。




これが、全てのはじまりだった…。






end.

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