☆ 妖狐×僕SS

□はじまり
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『はぁ。』


息を白く濁して、よどんだ空を見上げる。
今日は朝から土砂降りの雨が降っていた。
いつもなら上機嫌の学校帰りの電車の中でも、今日はそんな雨にため息が漏れてしまう。
駅から家まで少し離れていて、これを傘をさしながら歩くのがまたおっくうで仕方ないのだ。
まぁそんなことを言ったところで雨は止まないけれど。


あたしは湿った傘を手に地元の駅で電車を降り、改札を通って慣れた階段を重い足取りで降りる。


ふと顔を上げるとその階段の下りた先に、これまたずいぶんと髪の色が周りと浮いた好青年がいた。
その淡い色の髪をした青年はどうやら誰かを探しているようで、そわそわとしている。


と、あと数歩で階段を降りきるといったところで、ぱちりとその青年と目があった。
青年は思ったよりも背が高く、色白でやはり整った顔立ちをしていた。
すると、幻覚だろうか。
その青年はあたしと目があった瞬間に綺麗な金色と蒼色の目を見開いて、ほころび、あたしの方へと歩み寄って来た。


『(え?え?)』
「お帰りなさいませ、花様。」
『…はっ!?』


彼は純粋に気でも狂ったのだろうか。
目があっただけのあたしに物乞いしそうな目で見つめた後、あたしの前にやって来て階段の下でひさまづき、右手を左胸に当てた。
まるで、執事のように。


「ずっと、お待ちしておりました。花様…!」



勿論何が起きたのか分からず、私を中心に彼を含む半径1メートルは時が止まったかのような空気に呑まれた。


いや、冗談だよね?
この辺りは割と地味だからホストとか別になかったと思うんだけど。


ってか、周りの視線が凄く痛いんですけど…。


『あの…。あなたは?』
「これは…。大変失礼いたしました。私は御狐神双熾。あなたのシークレットサービスです。」
『え、し、しーくれっと?』
「とにかく…ここは人目につきますし、体も冷えてしまいますから。こちらへ。」
『ちょっ…。』


とりあえず、難しい文字をズラズラと並べている...
そこまでは理解できた。
み、みけつ…なんとかさんにまるでシンデレラの世界のように手をひかれて最後の階段を降りきり、黒い車へと誘導される。


いや…?
待て、このまま美青年の言いなりになって良いのか?
目の前にあるこの高級感溢れる車に乗ったら、そのままどっかに飛ばされちゃうんじゃないの?
だいたい、どうしてこの人あたしの名前知ってるの!?


しかし、色々考えているうちにあたしの防衛反応は結局何も働かずに、導かれるがままにあたしはその車の後部に乗り込んだ。
雨水をはじくツヤツヤのドアがボンッと音を立てて閉じられ、運転座席に彼が乗り込んだ。


え、やっぱりこれは降りて逃げるべきだよね?
小学生の頃から知らない人にはついていっちゃだめ。って言いつけられてきたし。


しかし、あたしがそれを行動に移すより、彼が口を開いた方がずっと早かった。


「花様はメゾン・ド・章樫やシークレットサービスをご存知ですか?」


メゾン・ド・章樫
通称妖館
そういえば、クラスのみんなが口々に言ってたなぁ。
確か、超高級マンションで住居する時に一世帯あたり1人にシークレットサービス、いわゆるボディガードがつくって...。


「なら、話は早いです。本日より花様はメゾン・ド・章樫の住民になられます。」
『...えぇっ!?』
「ですから僕は、今日から花様のシークレットサービスなのです。ですので、帰る時間を見計らい、ここでずっと花様のお帰りをお待ちしておりました。」
『...。』
「誠に勝手ながら、ある方からの御命令により、すでに部屋の荷物は全てマンションの方に移動させてあります。」
『ある方…?』


みけなんとかさんは、ニコッと素敵な笑顔をチラつかせてくれたが、正直全く笑えなかった。
確かに学校で多少の噂はたっていたし、全く例の[妖館]に興味がなかったというわけじゃない。
だけど…。


「さて、これからどうしましょうか?一度家に戻り、荷物を確認しますか?」
『えっ、ちょっと待って!ある方って…。』
「おや、ご存じありませんか?花様のご両親ですよ。」
『は?』
「ご両親のご意向によって、花様はマンションの入居を許されたのですよ。確か…海外出張…だとか。」


えっ、ちょっと、何、それ。
今まで以上に頭が真っ白になって、一瞬めまいがした。
だってあたしの家って別にお金持ちとか、もの凄い大企業に勤めてるわけでもないから、転勤なんて今まで1度もなかった。
だとしても、娘に内緒で海外出張なんて…


さすがにこれにはくらっときた。
あたしはそのまま目を伏せて座席に上半身をゆだねた。
考えが、整理できない…。


「花様!?花様!?」














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