★ テニスの王子様
□想い、重い。
2ページ/2ページ
それは、部活帰り。
2人きりの帰り道でのこと。
「そんな脹れっ面して。先輩、今度は何が不満なんですか?」
『...っ、赤也ぁぁ〜っ』
「ううぉっ...///」
あたしは今にも溢れだしそうな涙をこらえて、ぽけっとに手を突っ込んで隣を歩く赤也を抱きしめた。
赤也のラケットバックが邪魔をして手が背中まで回らないが、彼の温もりがだんだんと伝わってくる。
『...赤也、苦しくない?』
「は、はぁ?」
『あたしに抱きしめられて...』
自分でもおかしい、これはおかしいとは思った。
あたしは昔から恋愛が下手だ。
伝えたい気持ちを素直に伝えられない。
相手に断られたり、自分のプライドが傷つくのが嫌だから。
でも、彼はそんなあたしでもいいと言ってくれた。
俺の前で、少しずつでいい。
少しずつでいいから、素直になってほしい。
あたしが一生分の勇気を奮うって彼に告白したら、彼はそう言ってにこやかに笑ってくれた。
だから、ちょっとずつ、赤也には自分の思うことを自ら口に出すようになった。
『大好き』
『一緒に帰ろう』
恥ずかしかったけど、ちょっとずつ。
でも、まだあたしには彼にひとつ言えていないことがある。
『他の女の子と話さないで』
さすがにこれはヘビーすぎると分かってる。
でも彼が部活の休憩中に女の子から差し入れをもらっていると、凄く胸が痛む。
赤也は他の女の子といる方が楽しいのかな。
とか。
色々考えてしまう。
だけど、この言の葉は赤也の行動を制御するだけにすぎない。
むしろ、赤也を精神的につぶしてしまうかもしれない。
―だから、これだけは言えない。
「先輩、どーしたんですか?」
『赤也...』
「?」
『好き。』
「俺の方が好きっスよっ、先輩!」
『...』
「...先輩、ほんとに言いたいこと、言っていいんですよ。俺達、隠し事はしないって約束したじゃないですか。」
『本当に...?赤也、嫌がるかも...』
「何でですか?俺、先輩のどんなところでも受け止めますよ。」
赤也はそっとあたしを抱きしめて、あたしの髪に顔をうめた。
...赤也。
『あのね...赤也が、他の...女の子といるのが嫌なの...。』
「...!先輩......」
『だから...』
「先輩...っ!!!!」
その瞬間、あたしの呼吸が止まった。
言いかえれば、赤也があたしの呼吸を止めた。
唇と唇が強く重なり、赤也の手に力が入る。
『んん...っ。っぁ...っ』
「..っ//」
『あか...や。』
「先輩、俺、ずっとその言葉が欲しかったんスよ?」
『え?』
赤也は少しあたしとの距離をとり、まっすぐにあたしを見つめる。
「最近、先輩も勉強で忙しそうだったからゆっくり話せてなかったから、ちょっと女の子と仲良くしてたら嫉妬くらいするかなって...へへっ」
赤也はぽりぽりと頬をかきながら、またあの時と同じ笑みを見せた。
『...っ、赤也の馬鹿っ!!!』
「うっ...あっ...せんぱ...苦しい...」
あたしは力をこめてラケットバックと一緒に彼を抱きしめた。
「先輩...だから、言って下さいよ。本当に思ってること。今、遠まわしに言いましたよね?」
『赤也...』
「?」
『他の女の子と...話さないでっ///あたしだけと...いて...///』
「くくっ、最初からそう言えばいいのに!
りょーかいっ!」
赤也は、彼にしがみつくあたしの頭をぽんぽんと撫でて、おでこに軽くキスをした。
赤也...?
あたしの『不器用な好き』
伝わった…?
end.