『SF・ファンタジー』コーナー

□気の触れた吸血鬼
1ページ/13ページ

町外れにあるその館は構えは立派なのだが、あまりの不気味さに近寄る者さえ無い。

それはそうであろう。手入れする者がいないのだから当然だ。年月が過ぎれば、自然と寂れていくことになる。元に住んでいた者のことなど誰も知らず、ただ寂れて、廃れて、風化していくだけ。そこにあったものは既に人々の記憶にも誰の記憶にも存在しない。



一人の少女がいた。その洋館から少し外れた町に住む少女。父親は大会社の社長として様々な品を世の中に滞りなく流通させる仕事をし、母親は誰よりも娘を愛し娘を可愛がっていた。

惜しみない愛情を受けて育っていたその少女は何一つ不自由のない生活を送っていた。唯一、同じぐらいの年齢の友達がいないという状態ではあったが、本人の性格は別段内向的というわけでもなく、知らない相手と話すのはむしろ得意であるともいえた。

少女はしばしば町を抜け出して町近くの花畑に遊びに行くことがあった。別段拘束されているわけではなかったが、町の外に遊びに行くのは危険だからとよく両親に言われていたために町から出してもらえることはあまり無かった。なので誰にも秘密にして町を抜け出して遊びに行くのを、少女は楽しみにしていた。

しかし、少女に恨みを持つものはいなくとも、彼女の父親に恨みを持つものはいた。トップに立つ者であれば少なからず恨みを買うのは当然でもあった。けれど少女はそんな大人の事情は何も知らなかった。知る必要もなかった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ