東方儚奏仙
□第二章 仙人にとって……
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「はぁ……」
博麗霊夢は、雪が溶け始めた境内をほうきで掃きながら、ため息をついた。
「あの人、今日も来ないわねぇ」
あの人、とは、神社にお賽銭を入れてくれた仙人、死媚憂香の事である。
あの日、友達という関係になってからまったく来てくれていない。
また、お賽銭入れてくれないかなぁ。とんでもなく邪な考えを頭の中が巡る。
「やっぱり、あの人は神様だったのかなあ……。それも、山のあいつらよりも凄い奴」
「「ぶえっくし!」」
「どうしました? お二人とも一緒にくしゃみをして」
「はぁ、また来てくれるかなぁ」
と呟く霊夢。と、そんなところへ、
「誰に来て欲しいんだぜ?」
ふわりと霊夢の前で箒から飛び降りた霧雨魔理沙が、霊夢に問い掛けた。
「あら魔理沙じゃない。いやね、またこの間の仙人に来て欲しいなぁ……って」
霊夢がため息をつく。
「賽銭目当てか」
魔理沙はニシシと笑った。まるで全てお見通しだぜ! とでも言わんばかりに。
「それもあるけれど……、何より友達になったんだし、たまには来てほしいなぁ……って」
「おいおいまさか」
魔理沙が少し驚いたような口調で言う。「霊夢、まさかその仙人に……」
「なわけあるか!」
ベシッ!「あだ!」魔理沙の額にお払い棒の一撃が入る。地味な一撃というのは、たぶんこの世の中、いつも感じられるような痛みの中では一番痛いのではないのだろうか。
「じょ、冗談のつもりだったのにな」
「なら言うな」
「ヘヘ、はいよ」
叩かれた魔理沙は苦笑いをする。対する霊夢は頬を膨らませてプリプリと膨れっ面。こう見ると、二人は仲がいいとすぐに分かる。
なんとも和ましい光景である。
「何か楽しそうな話しているわねぇ」
その時だ。二人より少し上の方から声が聞こえたのは。
驚いた二人は、声のした方を見上げた。そこには
「はぁい♪」
「あ! あんた!」
死媚憂香が楽しそうに空中に浮いていた。
憂香はよっと声を出すと地面に飛び降りて、「久しぶりね霊夢さん」と、霊夢に声をかけた。
「お、噂をすればご本人の登場か」
「何の話をしていたのか知らないけれど、あなたは誰?」
そういえば憂香は魔理沙を知らないんだったと、霊夢は独り言を言う。当然だ、会った事がないのだから。
「私か? 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
と、八卦炉を前方に突き出し、ビシィ!! とキメる魔理沙。少々危ない人にも見えなくもないが、これが彼女なりの“普通”の挨拶なのだ。
「私は死媚憂香、仙人よ。宜しく」
なんで普通のって付けたのかしら? そんな疑問が憂香の頭の中に浮かんだが、どうでもよくなった。
「そうか、とするとやっぱりお前だったのか」
「「? 何の話?」」
もう一人の声は霊夢の声である。二人共、頭の上に“?”マークを浮かべている。
「いやな、霊夢が憂香が来ないと心配しt「わーわーわーわーわーわー!!!!」いたんだぜ」
叫ぶ霊夢。
「へぇ……」
その様子を見た憂香は、ジト目で霊夢の事を見た。ジト目の憂香はニヤリと笑う。その顔の裏にはどんな考えが浮かんでいるのだろうか。
「ま〜り〜さ〜!! 勘違いを招く言い方はやめなさいよ!!」
「本当の事じゃないか」
「私の事を心配してくれていたなんて、嬉しいわぁ」
「憂香!? あんたもなの!? あんたも魔理沙と共犯なの!?」
と突っ込みを入れる霊夢。
「あら、私は彼女の遊びに乗ってあげただけよ」
言い訳である。憂香は明らかに霊夢の反応を楽しんでいる。
ああ、やっぱりこの子は可愛いわぁ。あ、でもこの魔理沙って子も可愛いかも♪
……明らかに仙人の考えないような事を考えているなこの仙人。
「ふふ、あなた達って仲がいいのね」
「ふー、ふー、ふー、……。そ、そうかしらね、ふー……」
「何息切れしてんだぜ霊夢」
「あんたらのせいでしょうが!!」
顔を赤くして怒鳴る霊夢。だが、彼女はそれが二人の反応を誘っている事に気付かない。そしてまたからかわれて、また怒鳴るという無限ループが続くのだ。
その後も二人の、二人による、二人の為の霊夢弄りは続くのだった。
……霊夢、ご愁傷様。
影は木に潜み、三人の様子を伺っていた。だが、影は「これ以上は監視していても無駄、ね」と言い残すと、神社の周りの森の中に姿を消した。