東方儚奏仙
□ 序章 その者、怨霊操る
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〜間欠泉センター〜
“キケン!有毒ガス充満につき、死にたい奴だけ近寄ってもよし”
「ふーん」
一人の少女が、この言葉が書かれている看板を見ながら立っていた。「ガスが充満ねぇ……」
前まではこんなのなかったのに、そう少女は呟く。
まえ、とはいつ頃まえなのか、こんなの、とは看板の事かそれとも間欠泉のことか、はたまた硫黄ガスのことかは分からない。ただ、少女はそう呟いだけである。
歳は18、9ぐらいだろうか。服装はどこか独特なものを感じる物を着ている。そして、少女の手の平の上には青白い炎が灯っていた。
少女はその炎を、手を空へ伸ばしてかかげた。
「まぁ、私には“こんなの”が“いつ”できたのかなんて、関係ないけれど」
青白い炎は何かを待つように、儚さを醸し出して燃えていた。
少女は、その炎を少し上下に揺さぶって言う。
「おいで、怨霊たち」
少女が言葉を発してから間もなく、どこから湧き出たのか、数匹の怨霊が少女の手の平や体の周りを回り始める。少女の顔がほころんだ。
「さぁ、私の可愛い怨霊たち、もっと可愛い所を見せておくれ」
とたん、怨霊が狂ったように踊り始める。その姿は、まるで生前に自身が犯した罪を忘れているかのよう。
そして、少女はその怨霊を見ると、優しい笑顔を浮かべる。少女自身も楽しそうだ。
「なにをしているのですか?」
「ん?」
見ると、そばに一人の少女。雰囲気からして仙人かな?と少女は思った。
「なにって怨霊と遊んでいるだけだけれど?」
「看板が見えないのですか? 立ち入りは禁止だと書いてあるはずですが」
元からいた少女は、もう一度看板をみた。
「? 立ち入り禁止なんて書いてないけれどなぁ……」
「内容的に察してください。それに、何故怨霊と戯れているのですか? 怨霊は体に悪影響を及ぼします。今すぐ離れてください」
いろいろ煩い人だわ。少女は鬱陶しく感じた。
「確かに、怨霊は悪影響を及ぼすわよねぇ、普通なら」
そういって少女は怨霊に頬ずりをした。
「何で分かっているのに関わるのですか」
「別にぃ、私には悪影響なんてないもの。能力だってあるから」
「? どういう……」
「あ、そうそう、それと……」
少女は怨霊を自身の後ろに隠した。「最近、怨霊の数が減っているの。どういうことか知らない?」
少女は少し怒っているように見える。この仙人を怪しく思っているのは見てもわかる。
「……あなた、ここの管理人かなにか?」
と、少女。
「いえ、違いますが……」
「だったら」
チャキ。
「!?」
少女の腰からナイフが出された。そのナイフは、少しだが霊気のようなものを纏っている。
「私の怨霊に手を出さないで」
ナイフはすぐしまわれた。
少女はクルリと背を向けると、仙人少女に一言
「じゃあね。次に怨霊に手を出したら、ただじゃおかないから♪」
そう言うと少女は、硫黄ガスの煙の中へと消えて行った。
それを確認した仙人少女は、おいてけぼりにされた怨霊の内、一匹を包帯がグルグルまいてある方の手でつかんだ。
「……別に、そんな脅しは聞かないんですけれどね」
次の瞬間には、つかまれていた怨霊は跡形もなく握り潰されていた。