東方儚奏仙
□第三章 仙人にとって……〜The sorrowful memorys〜
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〜250年後〜
山の中を、一人の少女が歩いていた。
死媚憂香だ。
彼女は父親の意思を受け継ぎ、仙人となった。まだまだ未熟者だが、頑張って一人前の仙人になれるよう、努力している。
憂香は、何か目的があって歩いている訳ではない。ただ放浪しているだけだ。
あの日、つまり父親が処刑された日の事を、憂香は覚えている。はっきりと、鮮明に。
父が処刑される時、里の人たちは皆泣いていた。
悲しみ。ただそれだけの感情を示す物が、瞳から流れていく。
だが、父が処刑されるのは仕方のない事だったのだ。里一つを潰したのだから。
……鳳仙が里から追放と書いてあった新聞が出回った事もあった。天狗も、気を遣ってくれたのは有り難かった。
憂香は空を見上げる。木々の間から漏れる光が幻想的な一つの絵を生み出していた。
そして、憂香は追放。これだけは逃れられない運命だった。里を潰した仙人の子がいれば、里の存続にもつながるから。仕方なかったのだ。
歩いていると、急に憂香の視界が開けた。木々がここだけないのだ。
斜面が若干急なため、麓の里が少しだが見える。憂香は少しの間、歩みを止めていた。
……あの里には、憂香は近づけない。何故? 簡単だ。あの里は、人外を受け付けないのだ。
人語を理解できる、山の主である大狼に聞いた話なのだが、あの里の人間は、人外を見つけたら即殺すようにと命じられているらしいのだ。その為、あの里の周りには妖怪はおろか、鳥や鹿等の動物すらいない。
憂香は暫くそこに立っていたが、やがて背を向けると、山の中に戻って行った。