東方儚奏仙
□第三章 仙人にとって……〜The sorrowful memorys〜
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二人には幸せが訪れるだろうと、誰もが思っていた。
この夫婦こそ、理想だなぁと呟いた人もいた。
そう、里は二人によって笑顔が絶えなかったのだ。
だが。
幸せは、儚くも崩れた。
憂香が18の誕生日を迎えた次の月。
母の霊香が、二人の仲を嫉妬した別の里の人間に、殺された。
煙が上がる。悲鳴が聞こえる。そこらに血が飛び散っているのが上空からでもよくわかる。
だが、鳳仙は攻撃をやめない。その顔は悲しみと怒りに包まれていた。
涙がぽろぽろと里に降っていく。だがそれも、里で起きている火事の炎によって跡形も無くなる。そう、今この里にいる住人のように。
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
悲鳴? 泣き声? それとも叫び?
分からない、分からないのだ、本人でも。
感情の押さえが利かない。
周りを見れば、死体、死体、死体……。そして里を包む炎。
しかし、本人には見えていない。発狂してしまったその心によって、目は復讐しか見えていない。
里から追放されるまで、時間はかからなかった。
といっても、追放されたのは憂香だけだった。
鳳仙は大罪を犯したとして、里で処刑された。……処刑される際、住人は涙を流していたという。
これが、憂香の運命の歯車が狂う瞬間だった。