ショートストーリーファイル
□抱擁
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朝飯を作り終えて、俺は野営用の小さなテントに戻る。
中には昨日俺が介抱した同い年くらいの野郎が寝ている。
忘れもしない、3日ほど前に偶然絡んだ立派な刀と群青色の髪を持つ印象的なヤツだ。
俺とオセが腹を満たしに小さな飲食店に入ったときだった。
先客であるヤツの刀を見た俺らは少しは通じる見込みがあるかと考え、札使いを探しているという旨をそいつに伝えた。
――は?札使い?お前らそんなモンがホントにいると思ってんのか?
ムカついた。
もうこんな奴とは絶対関わらないと思っていた。
なのに、この有様だ。
と、その時ヤツの瞼が開いた。
「…よう、起きたか」
俺が言うとそいつはかなり驚いたらしく、急に跳び起き、逆に俺が驚いた。
「あれ?」
目が合う。
「お前…この前の…」
どうやらこいつも覚えていたようだ。
ほんの一瞬しか目を合わせていなかったのに、よく記憶していたもんだ。
「覚えててくれていたとは光栄だな。………なんか言うことは無いのか?」
俺の言葉を聞き、ヤツは少し考え込んでから、
「お前が、助けてくれたのか。悪い。助かった」
表情ひとつ変えずに言った。
―もうちょっと気分良い言い方が出来ないのかこいつは。
「…まあ良いか。今朝飯出来た所だから食えるなら食えよ。…というか多く作ったから食え」
ワンテンポおいて了承を得て、俺はオセを呼んだ。
作り立ての南瓜のスープとスライスしたフランスパンを手に入ってくる。
「おはようございます、起きたんですね。大丈夫ですか?」
相変わらずの満面の笑みだ。
俺ら2人はこの青頭が無事に食事をするのを見届けた。
そして、
「何があったんだ?」
何気なく訊いた。
「DFの奴らにやられ…――!!」
俺らの聞き慣れた言葉を吐いた後、ヤツはとっさに口を押さえた。
時間が、一瞬止まったような気がした。
オセが言う。
「…同志、発見ですね」