ショートストーリーファイル
□罪と報
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最近、夜を迎えるのが怖い。
毎日のように同じ夢を見るのだ。
I(ボク)が犯した罪をあざ笑うかの様に"彼"がひょっこり現れ、無言のまま肩に手を置き見つめることをやめない。
怖くてその手を払い落そうとすると、"彼"は頭から血を流しながら、こう言う。
「逃げる気か?」
夢といってもロボットのI(ボク)だから、皆が言う夢とは少し違う。
省電力モードのスイッチがあって、それを押すことにより身体に微電流が流れるだけになり、その微電流が視覚システムをかすめて夢のようなものを見せるのだ。
"起きる"時間は自分でタイマーでセット出来る他に、外部からのショックでも危機管理能力が働いて"眠り"から覚めることもできる。
逆を言うと"悪夢"で目覚めることは絶対無い。
いくらうなされようと一旦そこにはまれば時間が来るまで解放されることはないのだ。
だからと言って夜の間中起きているのも出来ればしたくはない。
ロボットにとっては屁でもないことなのだが、いつからだろうか、妙に孤独を感じるようになってしまった。
―――仲間。
これが一番大切なものだと、"彼"は言っていた。
"これ"を手に入れてからだ。
I(ボク)がこんな思いをするようになったのは。
きっとこれは罰なんだ。
あれだけの罪を犯したI(ボク)に仲間なんて、本来手の届く存在なんかじゃ無かった。
皮肉なことにもまだ小さいその少年は、ずっと"彼"を捜し続けている。
I(ボク)がその手にかけてしまったとも知らずに―――
「ラデュク兄ちゃん?」
少年の一声でI(ボク)は我に返った。
少年の手には一つの武器が乗っていた。
I(ボク)の新しい武器の弓矢。
この高性能の武器に早く慣れることが、今I(ボク)がしなくてはいけないことだ。
I(ボク)は少年からそれを受け取った。
こんないいものを使う権利なんかがこのI(ボク)にあるのか、と思ったけど、
"ロン"―――
"彼"の遺したこの名前を守り抜くことがきっとI(ボク)の使命だと、自分に言い聞かせた。
そして、弓を構えた。
あのどこまでも広がる蒼穹に、照準を合わせる。
―――どこかに、いるのかな
「お兄ちゃん!!」
「!?」
I(ボク)は思わず手を放してしまった。
「な…なんだいロン?」
「いや、ラデュク兄ちゃんが矢を向けてる方向に人がいたから…」
「へ?」
放たれた矢の軌道をたどった。
放物線の終着点の少し右に、フード付きの長いローブのようなものを纏った一人の人間が、向こうを向いて座っていた。
I(ボク)には―――
その周りだけ空気が渦巻いてるように見えた。
「ラデュク兄ちゃん…?」
I(ボク)は黙って近づいた。
見間違う筈がない。
毎日、YOU(キミ)のことを考えない日は無かったんだ―――
「――キャシオ…君?」
見慣れた顔が、振り返る。
I(ボク)の視界に広がる"彼"は、偽りなんかじゃない。