ショートストーリーファイル

□抱擁
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気付くとオレは青いテントの中で毛布を被っていた。



「よう、起きたか」

「!」



突然横から声がして、オレはびっくりして跳び起きた。


急に動いたせいで身体の節々が悲鳴をあげる。



「…いってて、…あれ?」




オレは…こいつに会ったことがある。



燃えているような橙の頭。

インテリさを醸し出す洒落た眼鏡。




よく覚えている。



こいつはこの前“オレ”を探していた奴だ。





「お前…この前の…」


「覚えててくれていたとは光栄だな」




忘れるはずもない。



あの時、こいつと初めて遭ったあの時。

あんなに心臓が張り裂けそうになったことはなかった。



「…なんか言うことは無いのか?」

「え?…あ、ああ」



―そうだ。オレは確かDFのヤツらとやり合って…相打ちになったんだ。


そして、とにかく街まで出ようと歩いていたら――目の前が真っ暗になった。




でもオレは生きている。


傷も塞がっている。




「…お前が、助けてくれたのか。悪い。助かった」



オレが言うとそいつは少ししかめっつらをして、朝飯をすすめてきた。


というかむしろ強制的に押し付けられた。





本当は断りたかった。

断るべきだった。



オレはこれ以上、こいつと関わる訳にはいかないから。





でも、流石のオレも善意に背くことはしたくない。


このオレンジ頭の相棒――確かにこの間遭った時も一緒にいた――が持ってきたパンと暖かいスープを有り難く口にした。







うまかった。








うまさに見惚れて、オレは、オレとしたことが、とってもマズいことをした。








ここにいたるまでの経緯を素で、話してしまった。
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