「すっかり暗くなっちまったな」
ひと通り片がついて、二人が障子を開けた頃には、外はもうすっかり暗くなってしまって、まだ雨は地面を規則的に叩きつけていていた。
「足元が悪いから気ぃつけて帰れよ」
「分かってますって」
「あ……」
玄関まで見送りに来た原田が、小さく声を上げれば、草履を履いて裾を上げ、傘を開きながら彼女は動きを止めて振り返る。
「どうかしました?」
「……あ、いやなんでも」
首を傾げている彼女の前で、考え込んだまま原田はしばらく眉根を寄せていたが、一度目を閉じると手首を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「やっぱ気が変わった」
「え?」
よろけた体はすっぽりと原田の胸元に収まった。
「原田さん……?」
焦ったような声をあげる彼女の耳元に口元を寄せる。
熱い息とともに吐き出された言葉。
「このまま……泊まって行けよ」
そうそっと囁けば、耳朶をくすぐる声に頬を赤らめて、やがて彼女は微かに頷く。
二つの影が姿を消した後の玄関には半開きのままの番傘が一つ転がっていた。