短編集
□ヒミツの関係
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「起立、礼――着席。それではこれより会議を始めます」
その声は、凛と生徒会室に響く。まるで、窓から見えるあの秋晴れのように、どこまでも澄み渡っている。
(あぁ……御堂様、今日も素敵だぁ〜)
生徒会のメンバーは、何度至福のため息を漏らしただろうか。いや、全校生徒や教師も例外じゃない。
3−A――御堂麗。生徒会会長。
すらりと伸びた手足。小振りの顔。透き通るように白い肌。艶のある漆黒の前髪から覗く、切れ長の瞳。筋の通った小振りの鼻も、薄い唇もすべてが他の者を魅了してやまない。
(一度でいいから会長に踏まれてみたいっ!)
まあ、それはとくにマゾっ気のある連中ではあったが……。
「副会長、さっきからボーッとして、話を聞いていたか?」
ビクッ。
その場にいた全員が凍り付くような冷たい声。
だがしかし、注意を受けた副会長こと、2−D――山田哲也の態度だけは違った。
「いやだなぁ、ちゃんと聞いてましたよ」
間延びした声。身長だけは無駄に伸びて体格には恵まれたが、それ意外は一切平凡といった風貌である。
副会長であるはずの彼は、会長を困らせるほどひどい天然だったのだ。
「生徒の上に立つ者がそんな態度でどうする。話があるので、君は少し残りなさい」
「は−い。会長」
楽しそうに返事をする彼の身を案ずる者など一人もいない。
ただただ、羨ましい。その一言に尽きる。それだけだ。
(あいつ、わざとあんな態度取ってるんだぜ)
(御堂会長にしかられたくて?)
(二人っきりになるためだよ!)
そんなひそひそ話が遠ざかっていく中、麗は眉間に寄せていたシワを取り去る。
やっかみ半分のその会話は、あながち間違いではなかったのだ。
ただし、二人きりになるのを強く望んだのは、哲也ではなく麗のほうだったのだけれど……。
「もうっ、なんでちゃんとしてくれないの? 俺の立場も分かってよ!」
二人きりになった生徒会室。
麗は子供のように頬を膨らませ、パイプ椅子に座る哲也に詰め寄っていた。
その姿は、さっきまでの彼から遠く掛け離れている。別人と言っても過言ではないほどだ。
表情や態度だけじゃない。声のトーンまでが違う。彼氏を前にした女のようだ……え?
「んー? 麗ちゃんに見とれてただけだよ?」
哲也はニッコリ微笑むと、そんな麗の腰を抱き寄せた。
実はこの二人、幼なじみでもあり恋人関係であったのだ。
この学園のトップシークレット。本人たち以外その関係を知る者はいない。
「うっ……そんなこと言っても騙されないよ! 罰として、ディープキスの刑に処す!」
麗はおもむろに哲也の膝に乗り上げて、恐ろしくも酷くもなんともない罰を下す。
言い忘れていたが、二人は相当なバカップルでもあった。
「えーっ! それは大変だ。俺そんなことされたら天国行っちゃうよ!」
哲也は大袈裟なくらい眉をハの字に下げて、泣きそうに瞳を揺らす。
あえて言っておこう。無駄なツッコミは入れないでくれと。
「天国じゃなくて地獄だって! でも……俺を置いてかないでね」
麗も麗で瞳を揺らしながら、哲也の首に腕を回した。
二人は見つめ合い、まるでこれから心中でもするんじゃないかと思えるほどに、思い詰めた表情を浮かべる。
「大丈夫だよ。麗ちゃんはどこにだって連れて行くし、どこにだってお供しますよ」
たいして心にも響かない哲也の台詞は、麗の心臓を容易く貫いた。
唇を寄せる。意味不明ながら、その瞳には感動の涙がキラリと光る。
「それでは、刑を執行します……」
厳かにつぶやき、麗の唇が哲也の唇に被さった瞬間――二人の身体に甘い電流が駆け抜けていった。
麗は怪しく腰を揺らしながら、薄く開かれた隙間から舌を侵入させ、哲也のそれを絡めとる。
「はぁっ……んん……」
そのゆっくりな動きに耐え切れず、口づけを深めたのは哲也のほうだ。
麗の後頭部をしっかり手で支えると、何度もしつこいぐらいに顎を入れ替える。
「やっ……哲也ぁ、ずるいってぇ……アッ」
まあ、確かにディープキスだが、罰でもなんでもない。普通にノリノリでやってるだけだ。
強引な哲也にうっとりしつつ、麗は主導権を自分に戻そうと、必死に舌を動かした。
「ハァ、ハァ……麗ちゃん、すごすぎ」
哲也は唇を離すと、キスだけでイッた直後のように妖艶な表情をする麗の頬に、チュッと軽いキスをする。
お互いが、お互いを好きすぎて止まらない。暴走した猪よりもタチの悪い二人だ。
「哲也ぁ……ねえ、ここでエッチしよ?」
麗は荒い息が整うと、小首を傾げてかわいらしくおねだりをする。
「ダメだよ。帰ってからのお楽しみ!」
それも魅惑的ではあるが、帰ってから思う存分やりたいと思う哲也だ。
「ヤ〜ダ〜! エッチしてくれなきゃ浮気してやる!」
けれど麗はなおも食い下がり、結局は願いを叶えてもらうことになっていた。
「麗ちゃん……もう、本当に挿れちゃうからね」
あてがわれる、平凡な哲也の唯一非凡なモノである極太君。
「やっ、あぁ〜ん! あっ……あぁぁっ!」
その後、生徒会室にはしばらく麗の嬌声が響き渡っていたらしい。