短編集

□DIARY〜もしも明日世界が滅びるなら
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 もしも明日世界が滅びるなら、俺はあいつと縁を切って自由になろう。



『1ヶ月前の日記より』





 数日前、海外からよく知る男の訃報が届いた。
 男の名前は田中健太。笑えるぐらいどこにでもいるような名前だが、有り得ないぐらい奇抜な性格の持ち主だった。
 失踪したとの知らせは一月ほど前に聞いていたが、いつものことすぎて気にも止めてなかった。
 当然悲しくなければ、涙も出てこない。
 そんな男と、俺は数年間身体の関係があった。





「おい、健太のこと聞いたか? いつかなにかやらかすんじゃないかと思ってたけど……急すぎるよな」

「まだ遺体は見つかってない」

「絶望的だろ? 難破船に乗ってたなんて……はっきり言って冗談かと思ったけどな」

 笑えない冗談だが、俺はこの話を聞いた時爆笑した。
 大概人気者な奴だったけど、死ぬ時まで周りを笑わせてくれるなんて、なんてサービス精神旺盛な男なんだ。片腹痛いっつうの。
 あいつとの出会いは高校の入学式だ。
 初日からオレンジ色の頭で注目を集め、早速教師や先輩たちにも目をつけられていた。

「名前がしょぼいんだから、見た目ぐらい派手でいさせてくれ!」

 平然とそう言い放った男に唖然となる。
 いったいどこの子供の言い分だ。呆れるが、それで教師や上級生を懐柔してしまったんだから、世の中はわからない。
 よほどインパクトが強かったその出来事は、俺が毎日書き綴っている日記にも記されていた。


『4月10日 晴れ』

 今日は入学式だった。
 オレンジ頭のあの男、田中健太という名前らしい。確かにしょぼい名前だ。
 背はかなり高いし、顔もいい。そんな目立とうとしなくても、外見だけで充分目立つだろうに。
 よほど頭が悪いのだろうか。そうとしか考えられない。俺には理解不能だ。


 今でも理解不能なんだから、当時の初対面だった俺がそう思ってもしかたがないだろう。
 入学してだいぶ落ち着いてきたが、俺は親しい友人の一人も作れずにいた。
 一方、あの男が大勢に囲まれてる姿はよく目撃した。

「倉崎ってクールビューティーって言われてるけど、それってどういう意味?」

「は?」

 クラスも違うのに、廊下ですれ違いざまいきなり話しかけてきたのは、他でもなく、あの田中健太だった。

「なんで俺の名前知ってんだよ」

「倉崎蓮ってかっこいい名前だよな。あっ、蓮って呼んでいい? 俺は健太でいいから」

 なにからなにまで意味不明な奴だ。しかも人の話をまったく聞かない。耳が悪いのかと、本気で疑った。

「それよりさー」


『5月6日 晴れ』

 あの田中健太と初めてしゃべった。
 てか、なんなんだあいつは。クールビューティー? 誰が? 俺が?
 しかも有り得ないことに、さらにおかしなことを言われた。日記に書くのも不愉快だ。
 明日あたり車にひかれて、学校を休んでくれないだろうか。いや、本気で。


 お願いだから死んでくれと思ったが、本当に死ぬとは思ってなかった。
 むしろ、あの時俺が殺しておけばよかったのだろうか。
 まあ、あいつなんかのために犯罪者になるのもバカバカしいけど。
 あいつは、初めてしゃべる俺にとんでもないことを言ってきたのだ。どうにかしてるとしか思えない。

「蓮って、男のくせにめっちゃ美人だよな。一回でいいからセックスしよう」

「……は?」

「ごめんごめん。今のは間違い。一回じゃなく、蓮といっぱいヤりまくりたい」

「…………」

 マジで死んだほうがいいんじゃないだろうか。過程をすべてふっ飛ばしてるどころか、男相手になにを言い出すんだ。
 女には不自由しないぐらいモテてるのに、どうしたらそんな発想になるのか教えてほしい。知りたくないけど。


『5月11日 曇り』

 毎日あいつは俺を見つけるたびに追いかけて来る。
 最近幻覚が見える。ノイローゼ気味だ。


『5月16日 晴れ』

 ストーカーだ。ストーカーが来る。
 とうとう精神的に追い詰められた俺は、一回だけという約束で、あの忌々しい申し出を受け入れてしまった。
 
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