短編集
□Secret
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人とはちょっと違う。僕らの年代では、それは憧れの対象にもなり、敬遠の対象にもなる。
どちらかで分けられるとしたら、僕は後者に当たるだろう。
「美鈴、帰ろう」
「あっ、樹。待って、すぐ行く」
高校に入学して半年以上経つというのに、僕には友達が一人しかいなかった。それも女の子。
彼女、美鈴は黒髪を肩まで伸ばした、かなりの美少女だ。
「ちょっと先輩に用あるから付き合って」
「いいよ」
「その先輩、すんごいカッコイイんだよー。片思い中なんだ」
「ふ〜ん」
僕が周りと馴染めない理由は、美鈴いわく“綺麗な顔”のせいらしい。
好きで女顔に生まれたんじゃない。それを嘆くと、必ず美鈴は僕に「贅沢」だと言った。
「雨宮先輩っ!」
美鈴の弾んだ声に、僕も顔を上げる。
「……っ」
その視線の先には、明らかに他者とは違うオーラを纏った人物が立っていた。
なんと言うんだろう。ワイルド系で、でも爽やかさも兼ね備えている、皆の憧れの対象となりうる人物だ。
「おー、あれ? 可愛い彼氏連れてんじゃん」
ゆっくりこっちに近付いて来た彼こそ、僕の人生を変える人物になる。
「彼氏なんかじゃないですよー。私、今募集中ですから」
「そうなの?」
急に話を振られて、僕は緊張で声も出ず、ただ黙って頷く。
「それで先輩、今度の飲みなんですけどー」
二人が話をしてる間、僕はその先輩を盗み見するように、見つめ続けていた。
時折目が合って、そのたび色気のある瞳で微笑まれ、僕は内心ドキドキしっぱなしだった。
(こんなふうになれたら……人生、楽しいんだろうな)
羨望の眼差しを送る僕には、先輩がどんな対象で自分を見ているかなんて、この時はまったく気づかなかったんだ。
「彼も来るの?」
「樹はそうゆうの苦手だから」
「そっ、ちょっとイツキくん借りていいか?」
(……えっ?)
どうして先輩がそんなことを言い出したか分からない。
けど、顔を上げると僕を真っ直ぐ見据える瞳とぶつかり、顔が熱くなってくる。
「樹がどうかしたんですか?」
美鈴が心配そうに僕を見てきた。先輩を好きだと言って、それでも、なにかあったら僕を守ろうとしてくれてるんだ。
「男同士で秘密の話があんだよ」
「えー?」
けど誘惑には抗えず、僕は先輩について行くことを選んでしまった。
自分から誘っておきながら先輩は終始無言で、僕もその後を黙ってついて行く。
向かってるのは、バスケ部の部室みたいだ。雨宮先輩がバスケ部の部長だと、美鈴が言っていたはずだ。
「俺、鍵当番だから」
部室の前まで来ると、先輩は僕を振り返り、獰猛な笑みを浮かべた。
それだけで、身体を竦めてしまいたくなるような迫力がある。
「あ、あの、先輩?――ツッ!」
鍵が開いた瞬間、身体を突き飛ばされて、僕はロッカーに勢いよく背中をぶつけてしまった。
一瞬息ができなくなって、怯えた瞳を先輩に向けてしまう。
「いいね、その顔。思った通りだぜ。美鈴ちゃんと付き合ってないって、本当?」
まだ美鈴との関係を疑ってるんだろうか。
「本当に……違います。美鈴とは友達なんで」
「よかった」
そんなホッとした顔して、先輩も美鈴が好きなんだ。そう思ったら、何故か胸に痛みが走った。
でも、それが間違った考えなのだとすぐに知らされることとなる。
「これで、思う存分お前を虐められる」
「えっ?……んんっ」
ロッカーに押しつけられたまま、強引に唇を奪われた。
僕はわけも分からず必死にもがくけれど、先輩との力の差は歴然で、身動き一つ取れない。