短編集

□勘違いラヴァー
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「慎吾、私神谷君と別れたから〜」

「んなっ!」

 あれほど待ち望んでいた結末が、今の俺には重くのしかかる。
 神谷は、あっさり俺との約束を守ってくれたんだ。
 その事実が、なんとも言えない感情を植えつける。

「だ、大丈夫?」

 まどかに対しての罪悪感があるのだが、見た感じ、まどかはケロッとしている。

「うん。もう新しい彼氏できたし」

「はっ……?」

 もう? 昨日の今日で? てか、俺のしたことってなんだったワケ?
 まあ、自慢じゃないけどまどかはモテる。同じ顔の俺はまったくモテないというのに……。
 そう考えると、今まで彼氏がいなかったのが不思議だ。ん? 実はいたのか?

「神谷君って意外に硬派っていうか、思ったよりもつまんなかったんだよねー。二週間も付き合ったのに、キスもしてこないんだよ」

「のっ!」

 まどかの爆弾発言に、俺の思考回路は完全に麻痺する。
 えっ? てか、まどかって、そういう子だったの? んでもって、神谷は硬派なの?
 ええええ、それはないないないない。俺にあんなこと言ってくるくらいだから……って、もしかして、からかわれただけだったのかな?

「じゃあ、今日デートだから」

「う、うん」

 ポッツーン。
 んで、俺にどうしろって?


 
 しかたがないので、俺は神谷を探しに校舎を回ってみました。
 神谷は保健室にいて、ベッドに座ってうたた寝をしています。

「あっ?」

 じーっと、顔を覗き込んでたら、神谷が起きて俺を見た。ドキュンて、心臓が変な音を立てる。
 神谷がカッコよすぎるのが悪いんだよな……。つまり、俺は見とれちゃってたんだな。

「まどかと別れたって? ありがと……」

「ああ、お前にはきっちり約束守ってもらうからな」

 うーん。ん? 冗談じゃなかったの?
 どうも神谷のキャラをわかりかねている。俺にエッチを強要してきたかと思えば、一方でまどかには手を出してないと言う。本当の彼は、一体どれなんだろうか。

「本気?」

 とか聞きながら、ベッドに押し倒されちゃったりしてるし。

「あたりめえだろ。さっさと服脱げよ」

 とか言われながら、脱がされちゃってるし。
 口調乱暴なくせに、手つき優しいし。

「ねえ、なんでまどかと別れてくれたの? てかなんでまどかとヤんなかったの? そもそもなんで付き合ってたの?」

「うっせーな」

「わっ!」

 しつこく質問をしてたら、シャツを全開に開かれてしまった。
 あ〜、ボタンが……まどかに怒られる。
 
「いいか、さっさとヤりてえから簡潔に言うぞ」

「……う、うん」

 神谷怖い。こめかみに青筋浮かんでるし。俺、そんなに怒らせるようなこと、なんかした?

「一つ、好きな奴がいるからあの子とはヤんなかった」

「……えっ?」

 チクン。見えない針で心臓を何者かにつつかれた。
 好きな子いるの? なのに俺とはヤんの? 女の子とは遊べないから、男の俺とヤんの?

「一つ、俺は勘違いしたんだ。って……なんで泣いてんだよ?」

「……っ」

 言われるまで気づかなかった。確かに……神谷がぼやけて見えるよ。

「だって……ひどいっ! 俺、オモチャじゃないもん」

 涙目で訴えると、神谷は突然うっと息を詰まらせ、目を見開いて俺を見てきた。

「最後まで聞けよ。だから俺は、あの子に告られた時、お前が女装してんだと思ったんだよ。双子だって知らなかった」

「なんで俺の話?」

 涙を止められないまま俺は首を傾げる。また神谷がうっ……てなってるけど、意味わかんない。

「バカ、グズ、鈍感」

「ええっ!?」

「俺はお前だと思って舞い上がったんだよ。ずっと見てたから、やっと想いが通じたって……」

「はい?」

 なにそれ? それだと神谷が俺を好きだって言ってるように聞こえるんだけど……。
 
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