短編集

□勘違いラヴァー
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 俺には生まれた時から十六年間、ずっと一緒の双子の妹がいる。
 なにするのも一緒で、身長も見た目もよく似ているから、幼い頃は親にも間違われていた。

「まどか、俺163センチになったぜ!」

 けれど高校に入り、やっとその妹との身長差が5センチになったのだ。
 少しだけど、俺たちにとっては大きな差だ。

「ふ〜ん。じゃあ、私も慎吾に報告。あのね〜、実は彼氏できたんだ」

「へぇー。そうなんだ。って、ええっ!?」

 さらりと言われ、俺は仰天してしまった。
 二人には、秘密の一つもないとずっと信じていたのに……。
 でも、まあしかたないか。まどかが幸せなら、俺も幸せだから。

「おめでとう。で、相手は誰?」

「神谷君」

「はぁ〜!? ダメだダメだ。あんな奴絶対俺は認めないぞ!」

 その名前を聞いて、寛大な俺は一瞬で消え去っていった。
 神谷という男には、まだ高校に入って数ヶ月だというのに、数々の女の噂があった。
 そんな奴に大事な妹は渡せない。

「うるさいな。慎吾とは絶交するよ」

「……っ!」

 まどかにチロッと睨まれ、目に涙が浮かぶ。

「もう泣き虫〜。冗談に決まってるでしょ」

 そう言われたけど、真っ白になった俺にはまどかの声など聞こえていなかった。
 くっそ〜! まどかがあんな意地悪を言うようになったのは、絶対に神谷のせいだ!
 かくして、俺はまどか奪還を誓った。
 神谷のバカみたいにデカい身長や、だらしなく着崩された制服を思い出すと、怒りで身体が震えてくる。
 目が合っただけで、じっと鋭い眼差しで睨まれて足が竦んだりもしたけれど……。
 まどかは絶対俺が助け出してみせる! と、俺の決意は石のように固かった。





(うっ……)

 運がいいのか、それとも悪いのか。決意した直後、人気のない廊下で神谷と出会してしまった。
 案の定鋭い眼差しに捉えられ、俺はまるで蛇に睨まれた蛙状態だ。

「あ、あ、あの……」

「なんだ?」

 勇気を振り絞って声をかけたものの、その迫力に負けてしまう。
 身長差約20センチ。俺とまどかの比じゃない。

「大丈夫か?」

 しかし、脅すような声色が告げた言葉は、俺を気遣うようなものだったのだ。
 うつむく俺の顎を掴み上げて、心配そうに顔をのぞき込まれる。

「……っ」

 若干噂とは違うイメージに、俺は戸惑う。
 寄せられた顔はあまりにもカッコよくて、心臓が苦しいぐらいドキドキしてくる。

「えっと、話が……」

 なんとかそれだけ伝えれば、神谷は俺の手を引いてどこかに歩き出してしまった。
 まるで、迷子で保護された子供みたいだと、自分でも思った。


 
 連れてこられたのは保健室だった。ベッドに座ったら、なんか本当に具合悪くなってきた。ずっと心臓うるさいし。
 でも、今更引けないから、俺は神谷の顔色を窺いながら口を開いた。

「俺、まどかの双子の兄なんだけど……遊びならまどかとは別れてほしいなぁ……なんて?」

 神谷の無言の視線が怖くて、俺はどうしてもボソボソとしか話せない。
 それでも最後まで言い切ると、俺は赤くなった顔を隠してうつむいた。

「いいぜ」

「えっ?」

 そしたら呆気なく了承されて、逆に俺はキョドってしまう。

「けどタダってわけじゃない。身体の相手はお前にしてもらうぞ」

「へっ?」

 言われた意味を理解する前に、俺はまさかという思いで、マヌケな顔をしてしまう。

「同じ男なら、お前にもわかるだろ? 欲求不満は身体に悪い」

 けれど間髪入れずにそう言われて、顔が青ざめていく。
 つまりそれは、そういう意味でそうゆうことになるのだろう。

「そ、そんなぁ〜」

 俺は男だとか、言いたいことはたくさんあったんだけど、無情にも神谷は保健室をさっさと出て行ってしまった。
 部屋には俺の出した情けない声だけが、虚しく響いていた。
 
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