短編集

□貴方が好きです
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「おい、お前が矢野?」

「ん?」

 トイレで用を足して、手を洗っていたら、後ろから声をかけられた。

「なあ、お前誰とでもヤルんだってな? マジキモイんだけど」

 振り返ると、隣のクラスのワイルド系ギャル男君が腕を組んで立っていた。
 目が合うと、僕は妖艶な笑みを浮かべる。

「だったら、一回試してみる? 後悔はさせないよ」

「はあっ!? えっ?」

 僕はさっさとギャル男君の手を掴み、引きずるようにしてトイレの個室に押し込んだ。
 時々こういった輩がいて困るんだよね。
 自分がノーマルだと信じ込んでるくせに、悪意で僕の気を引こうとしてくるんだから。
 でも特別いいよ。結構タイプだし、一回くらいなら。

「俺は、そんな気ねえっつうの……あっ! やめろ……くっ!」

「んっ……」

 思ったより大きなギャル男君の性器を取り出すと、僕はそとを躊躇いなく口に含んだ。

「うっ……くっ……」

 キュッキュッと、先っぽを愛撫してあげるだけでギャル男君は質量を増し、先端の穴から先走りが滲み始める。
 それに気づいた僕は、こっそりほくそ笑み、誘惑的な眼差しをギャル男君に送った。

「ねえ、コレ……僕の中に挿れて? ギュッとしめつけてあげるよ」

「……っ」

 ギャル男君が更にギュインと大きくなる。
 そして誘惑に負けたように、僕のお尻に手を伸ばしてきた。
 




「あ〜、いいことしちゃった!」

 ギャル男君を完全に落とした僕は、とてつもない充足感に浸っていた。
 最初は慣れない感じだったけど、二回目からは勝手が分かったのか、かなりいい思いをさせてもらったのだ。
 あれはかなり使い込んでると見たね。ギャルちゃんたち食い放題なんだろうな〜。

(でも、ギャル男君ならまたやってもいいかも〜!)

 ルンルン気分で歩いていたら、廊下でばったり宏樹と出くわした。

「馨……またヤってただろ?」

「うんっ! でも聞いたよ〜。宏樹ってば、保健室の由香先生としたんでしょ?」

「まあなー」

 ちょっと機嫌悪そうだった宏樹は、その話題を出した途端、ころっと得意げな表情に変わった。
 見た目もアレも最高だけど、宏樹って中身は子供で最低なんだよね。

「そうだ宏樹……野球部の元部長って、どんな人?」

 僕は話題を変えるように、熊さんのことを聞いてみた。

「はあ? お前まさか熊谷先輩にまで手を出したのか?」

「まっさかー!」

「だよな。流石にお前でも、あれはないよな」

 自分から振った話だけど、ハハハッと笑う宏樹に、僕は少し嫌な気分になってくる。

「部長としては尊敬してたけど、人がいいだけが取りえで、男としてはダメだな。絶対童貞だぜ」

 人がいいだけが取りえなんて、すごいことじゃん。
 童貞だって、きっとまだいっぱいいるよ。

「図体に反して、アレはお粗末だったりするんだぜ」

 そんなことない!
 なぜか僕は熊さんの悪口を聞いていられず、黙って宏樹から離れた。

「あ、おい! 今度は誰の所に行くんだよ!?」

 宏樹がなにかを叫んでたけど、もちろん無視した。
 僕が熊さんの潔白を証明してやるんだ!
 そんな勝手な使命感に捕われて、僕は校舎裏に向かう。
 もしかしたら、また熊さんに会えるかもしれないと思ったからだ。

(あっ、いた……!)

 思った通り、校舎裏に着くとは参考書を手にした熊さんが、壁に寄りかかって座っていた。
 あれ? でも、なんか様子がおかしい。

「……寝てるし」

 近づいて顔を覗き込むと、熊さんはすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
 こんなに寒いのに、風邪を引いたりしたいだろうか。

「………」

 僕は黙って熊さんの隣に腰を下ろし、身体を密着させてみる。
 嫌な感じはしない。それどころか、熊さんの身体は暖かくて、安心したように僕まで眠くなってきてしまった。



「――ん?」

 目覚めた僕は、寝ぼけ眼で当たりを見渡し、自分が外で寝てしまった事に気づいた。
 けど、全然寒くないのはどうしてだろう?

「起きた?」

「あっ……」

 熊さんだ。どうやら、僕は熊さんの膝の上に頭を乗せて寝てたらしい。
 しかも、僕の上には熊さんのらしきブレザーがかけられている。

「ごめん。熊さん寒かったよね?」

「いや、俺は暑がりだから……」

 もう冬なのにそんなバカな……と思い、熊さんを見上げると、本当に額に汗が滲んでいた。
 
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