短編集
□貴方が好きです
3ページ/14ページ
少し仮眠を取ってから落ち着いたところで、僕は購買に向かった。
食は細い方だけど、流石に体力を消費したせいでお腹が空いた。
「あら、馨ちゃん早いわね」
「うん、そうかも。えっと……野菜ジュースとクリームパンちょうだい」
購買のお姉さんに200円を渡し、僕は可愛く笑ってみせた。
実は、このお姉さんともエッチ経験アリだ。
三度の飯より、男のアレが好きな僕だけど、どうしても童貞だけは捨てたかったから。
「馨ちゃん、いつ見ても可愛いわね〜。またお姉さんとも遊んでね」
「は〜い」
ジュースとパンを受け取り、僕はお姉さんに手を振る。
お姉さんとのエッチは気持ちよかったけど、正直僕はやるよりやられる方が好きなんだ。
(しかも……ちょっとSっ気あったし)
やっぱ、エッチは痛いより気持ちいい方がいいからね。
そして僕は、昼ごはんを手に、人気のない校舎裏に向かった。
同じ場所にとどまるのは好きじゃない。自分の場所を探してるわけじゃないけど、色んな所を転々としている方が落ち着くんだよね。
「ふぅ……」
やっと一人になった僕は、大きなため息をついた。
ご飯の時くらいしか一人になる時間ないから、今のうちにのんびりと寛ごうと思ったのに……。
「あっ」
ザッと砂を擦る足音が背後でして、僕は顔をしかめた。
「あっ、ごめん……先客いたんだ」
振り返ると、そこには三年生らしき巨大な男が立っていて、僕は首を傾げる。
(……あれ? この人誰だっけ?)
どこかで見たことがあると思ったら、元野球部の部長だ。
確か……熊だかゴリラだかって名前だったような……?
「横いいかな?」
「食べ終わったらね」
「えっ?」
遠慮がちに話しかけられ、僕は素っ気なく答える。
「だって、ご飯は一人で食べるもんでしょ?」
当たり前のようにそう言うと、困ったような顔をされた。
なんかおかしなこと言ったかな? と、僕が不思議に思ってる間に、隣に座られてしまった。
「飯は誰かと食べるもんだよ」
「?」
じゃあ、自分はなにしに来たのかと思えば、おもむろに参考書を取り出した。
三年生だから、受験勉強しに来たのか。
「今まで部活しかやって来なかったから、勉強のしかたが分からなくて困ったよ」
「変なの〜」
僕が不審げに見つめていると、言い訳のようにつぶやいてきた。
(って言うかこの人、僕に気があるのかな?)
勉強ならわざわざ嫌がる僕の隣でやるより、よそでやった方がいい。
そう考えると、悪い気はしなくて、改めて先輩の横顔を見つめた。
(……でも、ム〜リ〜)
僕だって、男なら誰でもいいわけじゃないよ。
面食いなのは当然だけど、それだけじゃなくエッチが上手で、アレがデカくなくちゃ……。
(んー……大きさだけなら合格かも……)
体格からいって、小さいことはないだろう。
けど、経験もあまりなさそうだし、なんと言っても、外見が熊ゴリラだし。
「なんだい?」
ずっと見ていたのが気になったのか、訝しげな視線を送られる。
「先輩、名前なんてゆーの?」
「熊谷だけど……そう言う君は?」
「矢野馨!」
元気よく答えたけど、僕は、あれっと思った。
僕の名前を知らなかったってことは、僕に興味があって近づいてきたわけじゃなさそうだ。
(んん?)
それに、よく見てみたら、熊さんからは同類の匂いがしない。間違いなくノンケだろう。
男子校だからって、みんなが男とやってるわけでもないから。
「ちゃんと食べてからにしなよ」
「え?」
興味をなくして立ち上がろうとする僕を、なぜか熊さんが引き止めてきた。
「食は命だからね」
なにを言い出すかと思えば……おっかしいの!
「ぷっ、熊さんってオヤジくさい」
「……熊谷だって」
その後、僕は熊さんの隣で最後までパンを食べた。
食欲も失せた気がしたのに、どうしてか美味しく食べれた。
幼い頃からご飯は一人で食べるものだと思ってたけど、もしかしたら、誰かと一緒の時に食べた方が美味しいのかもしれない。
なんてことを僕は真面目に考えてしまった。