短編集

□貴方が好きです
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 少し仮眠を取ってから落ち着いたところで、僕は購買に向かった。
 食は細い方だけど、流石に体力を消費したせいでお腹が空いた。

「あら、馨ちゃん早いわね」

「うん、そうかも。えっと……野菜ジュースとクリームパンちょうだい」

 購買のお姉さんに200円を渡し、僕は可愛く笑ってみせた。
 実は、このお姉さんともエッチ経験アリだ。
 三度の飯より、男のアレが好きな僕だけど、どうしても童貞だけは捨てたかったから。

「馨ちゃん、いつ見ても可愛いわね〜。またお姉さんとも遊んでね」

「は〜い」

 ジュースとパンを受け取り、僕はお姉さんに手を振る。
 お姉さんとのエッチは気持ちよかったけど、正直僕はやるよりやられる方が好きなんだ。

(しかも……ちょっとSっ気あったし)

 やっぱ、エッチは痛いより気持ちいい方がいいからね。
 そして僕は、昼ごはんを手に、人気のない校舎裏に向かった。
 同じ場所にとどまるのは好きじゃない。自分の場所を探してるわけじゃないけど、色んな所を転々としている方が落ち着くんだよね。

「ふぅ……」

 やっと一人になった僕は、大きなため息をついた。
 ご飯の時くらいしか一人になる時間ないから、今のうちにのんびりと寛ごうと思ったのに……。

「あっ」

 ザッと砂を擦る足音が背後でして、僕は顔をしかめた。
 
「あっ、ごめん……先客いたんだ」

 振り返ると、そこには三年生らしき巨大な男が立っていて、僕は首を傾げる。

(……あれ? この人誰だっけ?)

 どこかで見たことがあると思ったら、元野球部の部長だ。
 確か……熊だかゴリラだかって名前だったような……?

「横いいかな?」

「食べ終わったらね」

「えっ?」

 遠慮がちに話しかけられ、僕は素っ気なく答える。

「だって、ご飯は一人で食べるもんでしょ?」

 当たり前のようにそう言うと、困ったような顔をされた。
 なんかおかしなこと言ったかな? と、僕が不思議に思ってる間に、隣に座られてしまった。

「飯は誰かと食べるもんだよ」

「?」

 じゃあ、自分はなにしに来たのかと思えば、おもむろに参考書を取り出した。
 三年生だから、受験勉強しに来たのか。

「今まで部活しかやって来なかったから、勉強のしかたが分からなくて困ったよ」

「変なの〜」

 僕が不審げに見つめていると、言い訳のようにつぶやいてきた。

(って言うかこの人、僕に気があるのかな?)

 勉強ならわざわざ嫌がる僕の隣でやるより、よそでやった方がいい。
 そう考えると、悪い気はしなくて、改めて先輩の横顔を見つめた。

(……でも、ム〜リ〜)

 僕だって、男なら誰でもいいわけじゃないよ。
 面食いなのは当然だけど、それだけじゃなくエッチが上手で、アレがデカくなくちゃ……。
 
(んー……大きさだけなら合格かも……)

 体格からいって、小さいことはないだろう。
 けど、経験もあまりなさそうだし、なんと言っても、外見が熊ゴリラだし。

「なんだい?」

 ずっと見ていたのが気になったのか、訝しげな視線を送られる。

「先輩、名前なんてゆーの?」

「熊谷だけど……そう言う君は?」

「矢野馨!」

 元気よく答えたけど、僕は、あれっと思った。
 僕の名前を知らなかったってことは、僕に興味があって近づいてきたわけじゃなさそうだ。

(んん?)

 それに、よく見てみたら、熊さんからは同類の匂いがしない。間違いなくノンケだろう。
 男子校だからって、みんなが男とやってるわけでもないから。

「ちゃんと食べてからにしなよ」

「え?」

 興味をなくして立ち上がろうとする僕を、なぜか熊さんが引き止めてきた。

「食は命だからね」

 なにを言い出すかと思えば……おっかしいの!

「ぷっ、熊さんってオヤジくさい」

「……熊谷だって」

 その後、僕は熊さんの隣で最後までパンを食べた。
 食欲も失せた気がしたのに、どうしてか美味しく食べれた。
 幼い頃からご飯は一人で食べるものだと思ってたけど、もしかしたら、誰かと一緒の時に食べた方が美味しいのかもしれない。
 なんてことを僕は真面目に考えてしまった。
 
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