短編集

□僕のご主人様
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「お帰りなさいませ。ご主人様」


 帰宅時には必ず、頭を深々と下げて主人を出迎える。
 それが、この屋敷のメイドである結衣の仕事であり日常だ。
 女性用のメイド服を身に纏う姿は、どこから見ても女の子だが、結衣はれっきとした男の子だ。

「部屋に来い」

 ご主人様と呼ばれた、結衣と同年代の少年は顎をしゃくり、結衣をこともなげに呼びつけた。

「かしこまりました」

 萎縮したような結衣を見下ろすと、その少年は結衣を待たずに大きな屋敷の中を進み、自室へと向かう。



 少年はこの屋敷の次男で、結衣の二つ年上の高校三年生だ。
 結衣は数年前、両親の借金の形に、この屋敷に連れて来られたのだ。
 その両親が亡くなった今でも、結衣はこの家で仕えることを余儀なくされていた。

「誠様……」

 主人を呼ぶ結衣の表情が物憂げに陰る。
 不満はない。女の子の服を着るのに抵抗はあるが、自分の居場所を与えて貰ってるだけで感謝していた。
 誠が望んだことだからそれも堪えられる。
 この屋敷で、結衣に酷く当たるのは誠だけだけど……。
 胸に広がる想いは、感謝と、誠に無理を命じられた時に体を駆ける、甘すぎる快感だけ。

(ずっとご主人様に仕えられるなら、僕は……)

 だけどその感情は、決して、顔には出さぬように――。
 


「結衣!」

「あっ、お帰りなさいませ。雅也様」

 誠の部屋に向かう途中で、この屋敷の長男の雅也に声を掛けられ、結衣は足を止める。
 その表情は、誠に見せる態度よりもずっと柔らかいものだ。

「ただいま。そんな頭下げなくていいって、いつも言ってるでしょ」

「もっ、申し訳ありません」

 シュンとしてしまう結衣の頭を撫でながら、雅也は優しげな表情を結衣に向けた。
 この屋敷の人々は、結衣が首を傾げてしまうほど、誰もが優しく接してくれる。
 旦那様も、奥様も、そして、雅也も。
 ただ、一人だけを除いては。

「そんな急いで、どこに行こうとしてたの?」

「えっ、あ……ご主人様――誠様のところに」

 答えを知っていて、わざと問い掛けた雅也に、結衣はしどろもどろになって答える。
 そんな可愛い態度をとる結衣に、雅也は愛おしげに、どこか後ろめたそうな眼差しを向けた。

「あの……僕、急ぎますので」

 雅也の不可解な態度に気づかず、結衣はなにかに急かされたように、誠の部屋の方向を見やる。

「結衣」

「はい?」

「いや……」

 言い掛けた言葉を呑み込んで結衣に微笑みかけると、結衣の可愛い顔からも満面の笑みが零れ落ちた。
 本当に素直で可愛い子だ。養子にして、ここの子になればいいのにといつも思ってしまう。
 誠が、それを許すはずもないが……。

『俺と、屋敷出よう?』

 その台詞を言わずに済んだのは、弟の顔がよぎったせいだ。
 


 誠の部屋の前までくると、結衣は遠慮がちにノックをして、中に足を踏み入れた。

「遅い」

「もっ、申し訳ありません」

 誠の暗い瞳に射抜かれて、結衣は身体をビクッと竦ませる。
 整いすぎるってぐらいに綺麗な顔は、冷たい表情をすると近寄りがたい空気を醸し出す。

「兄貴と話してたのか? お前の主人は誰だ? 俺だろう?」

「……はい」

 誠の言うことは、横暴などではなく事実だ。
 結衣を屋敷に置くと決めたのは、他の誰でもなく、この誠だから。

「こっちに来い」

 ソファーに腰掛ける誠に手招かれ、結衣は言われた通りに従い、誠の足元に跪いた。

「しゃぶれ」

 目の前でズボンを寛げる誠に、コクンと頷き、結衣はゆっくり股間に顔を埋める。
 まだ反応を示していない誠の性器に舌を這わせると、結衣は切なげに眉を寄せた。

「嫌そうにするな。萎えるだろ」

「……っ!」

 その言葉に、結衣は本心を解き放つ。
 遠慮などせずに、正直に求めていいんだ。

「んっ……ふっ……」

 今度は情熱的に、誠に愛撫を加え始めた。
 全部は咥えられない先端部分を口に含み、両手で竿をしごきながら、チュウっと音を立て吸いつく。

「ご主人様……すごい溢れてきた……」

 嬉しそうにそうつぶやくと、結衣は激しく顔を上下に動かした。
 まるで、自分が奉仕されてるかのように、腰を揺らめかせながら……。
 
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