短編集
□ずっと大好き!
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「どんなワガママも聞くし、どんな扱いされても嫌じゃない」
懸命になにかを伝えてこようとしてる雅弘に、那智はやっとその言葉の裏に隠れていたものの正体に気づいた。
(もしかして……告られてる??)
気づいてしまったといえ、その気持ちに応える気のない那智は、ただ戸惑うしかない。
「那智ちゃん、俺……」
一方、雅弘は必死だった。今度那智がフリーになったら、絶対に告白すると決めていたのだ。
こんなチャンスない。今しかないのだ。
「本気で、那智ちゃんのことが……」
「ストップ! ストップストップストッープ!」
那智は今にも襲いかかってきそうな雅弘の口を両手で塞いで、続く言葉を遮った。
聞くわけにいかない。聞いてしまったら、今の関係が崩れてしまう。この、便利な下僕を失ってしまうから。絶対に失いたくないから。
「もう帰れ!」
だから、いつもの気まぐれを言うように、那智は高飛車に言い放った。
「そんな……」
爆発寸前で止められてしまったほうは、たまったもんじゃないだろう。
雅弘は口をあんぐり開けて、縋るように那智を見つめるが、首を横に振られるだけだった。
(俺じゃあ……ダメなんだ……)
雅弘の顔が、一気に落胆で沈む。
この想いを打ち明けることさえも許されないなんて、あまりに悲しすぎる。
「……ごめん」
そう言い残して立ち去る雅弘の背中を、那智は追いかけられずに、ただ苦しげに見送るしかなかった。
一人になった那智は、途中だったメールを黙って消去した。
頭の中が雅弘のことでいっぱいになっていて、他のことを考えてる余裕なんてない。
「あっ……?」
その時、握りしめていた那智の携帯にメールが入り、一旦考えを中断させた。
『坂井の友人の宮崎と言うものです。坂井の件で話したいことがあるので連絡下さい』
坂井とは、今日別れた男の名前だった。このメールの人物にも一度だけ会ったことがある。
(なんだろ……なにかあったのかな?)
もう赤の他人だと言っても、無視するわけにはいかなくて、那智はしかたなくその宮崎という男にメールを返信した。
『那智です――』
宮崎と翌日会う約束を交わし、那智はベッドに入った。
しかし、雅弘のことを考えると、なかなか寝つけず、イラついた夜を過ごす羽目になってしまった。
(肌荒れしたら、絶対恨んでやるっ!)
心臓がドキドキと音を立てている。
雅弘の大きな手……初めて見せた雄の表情。自分を好きだと言った、あの低い声が頭から離れない。
だけど……。
一時の迷いで、雅弘まで道を外させたくない。
いつか雅弘が結婚して子供ができたら、笑顔で抱き上げてあげよう。そう、ずっと前から決めていたから。
那智が雅弘を本当に大事だと思っていることは死ぬまで隠し続けるつもりなのだ。
「突然メールして悪かったね」
「いえ」
翌日那智は大学の帰りに宮崎と会っていた。坂井とも来たことのある、お洒落なカフェで待ち合わせをしたのだ。
(……金持ちそう)
宮崎は25歳にしては、スーツも時計も、相当高級なブランド物を身につけている。
坂井もそれなりだったが、正直それ以上だ。
「ご飯食べた? レストランに行こうか?」
「ここでいいです」
いつもだったら即オッケーしていただろうが、今はそんな気にはなれない。
年上の金持ち――それよりも、雅弘の屈託のない笑顔が那智の心を占めている。
「話ってなんですか?」
早く雅弘のとこに帰りたくなって、那智は宮崎に話を促した。
「ああ、坂井なんだが、落ち込みようが激しくてね」
別れを切り出したのは彼なのに、今更そんなことを言われても迷惑だ。
「あの、坂井さんの話なら、もう僕には関係ありませんので……」
きっぱり言い切ったのに、宮崎はなぜかふっと微笑んできた。
「坂井が、君と別れた本当の理由を知らないだろう?」
「理由?」
そんなの、自分の我が儘に耐えられなくなったからだと、那智は思っているし言われもした。
しかし、本当の理由は他にあったのだ。