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□リトルモンスター
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【一章】




 地雷を踏んだ。いや、地雷を踏まれた。
 数時間前に、鏡に向かってあれだけ決意表明したというのに。
 こめかみにくっきりと浮かぶ青筋。禁句とされるキーワードを、一つならまだしも二つも食らったのだ。
 それだけで、受けたダメージはかなり大きい。もう、精神ポイントはゼロに近い。

(ぐっ……)

 それでも堪えようと努力はしてみた。けど、無駄だった。
 喧嘩はしちゃいけませんと、幼稚園の先生にも小学校の先生にも散々言われてきたが、自分に非はなかったと今でも信じてる。
 そう、だって……喧嘩の原因を作ったのは、必ず相手だったから。





「てんめっ……今なんつったっ!?」

「ああ? チビは耳も小さくて聞き取れなかったか? チビっつったんだよ、チビ」

「おまっ……!」

 一番のコンプレックスを三回も言われ、とうとうブチッと音を立ててなにかが切れた。キレた。
 数十センチは高いと思われる男の胸倉を掴み上げ、というかぶら下がるようにしてきつい眼差しを向けた。
 黒々とした大きな瞳が涙に濡れて震える様は、小動物を連想させる。

「なにあいつ、超可愛くね?」

 なんて声がギャラリーから聞こえたが、怒りに震える彼には幸いにも届いていなかった。
 もう一人には聞こえていたようだが、どうでもいいと自分にぶら下がる物体を見下ろす。

「本当のこと言っただけだろ? キーキーうるせえな。女子は女子校行けよ」

「ぐ……」

 さらに二番目のコンプレックスを付け足され、少女のように可憐な顔が真っ赤に染まった。
 春風が靡かせる彼の髪は、瞳と同じで真っ黒ではあるが、柔らかそうにふわふわと揺れている。
 どこからか迷い込んできた桜の花びらとあいまって、見る者の視線を釘づけにする。
 なんとも風情のある光景と、ギャラリーは無駄に沸き立つ。

「ざけんなっ! 俺はちゃんと持つもん持った男だ! なんだったら、今すぐここで証明してやるか!?」

 が、さすがにストリーキング宣言には引いてしまうのもしかたない。
 なんせ、本当に持ち物を持っているとは思えないぐらいに可愛い容姿をしているのだ。
 ゴクリ。ちょっと見てみたいと思うのは、年頃の男の子だったらしかたないのかもしれない。

「勝負だっ!」

 けれど、無謀だと思える相手に果敢にも立ち向かって行く姿には、感動して胸が熱くなる。
 いつしかギャラリーは皆、固唾を飲み、手に汗握って、彼を応援していた。

「てりゃあぁぁっ!」

「うぜー」

 ペリッ、ポイッと、まるで音でも聞こえてきそうなほどの見事な絵図。

「うわっ!」

 ドスンと、勢いよく地面に転がる。
 応援虚しく、その決着は、たったの三秒程度でついてしまった。
 そう、彼は短気で喧嘩っ早いが、見た目同様その腕前はヘッポコだったのだ。
 
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