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□危険な花園
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 その、なんらかの感情を抱いてるらしい修は、親切を装って左京の肩に手を置いた。
 軽いボディータッチは役得だが、誰も修を責められない。

「なんかあったら、すぐに相談してくれよ」

 そう話す修は、ただの善人にか見えないから。
 一方の左京は、セクハラされてるとも知らず、嬉しそうに破顔する。

「うん。ありがとう」

 一瞬だけ垣間見れた、左京の微笑み。周りにザワッとどよめきが起きるが、修がそれを自分の身体で遮ってしまう。
 見れた人間は幸運だ。いつもはツンとすましている左京のそんな顔など滅多に見れるものではないのだ。

「僕嫌われ者みたいだから、委員長がいてくれて助かるよ」

 もっとも左京にそんな気はなく、ただそう見えてしまう顔つきをしてるだけなのだけど。
 しかも、自分が嫌われ者だから敬遠されるのだと勘違いまでしてるらしい。

「クラスメート全員を気遣えるのが、理想の委員長だからね。俺はまだまだだけど」

「やっぱり委員長はすごいな」

 素直に感動してる左京は、修の眼鏡の奥の瞳が怪しく光ったことには気づいていなかった。

「ところで、どんな生徒に絡まれたんだ?」

 ずれてもいない眼鏡を直す仕種をして、修はまっすぐ左京を見つめる。
 左京に近づく輩を野放しにしておけない。一見穏やかでおとなしそうな顔をした修だが、腹の中は結構真っ黒だったりする。
 見つけたら、ちょっと牽制してやろうなんて考えてる次第だが、その表情からそれを読み解くのは困難であろう。

「うーん。ちょっと怖そうだけど、性格はそんな悪くなさそうだったよ」

「花園は優しいんだな」

「ううん。本当のことだよ」

 左京はさっきの彼のことを思い浮かべて、クスッと笑った。
 明日会う約束をしている。そしたら名前を聞こう。誤解が解けたら仲良くなれるかもしれない。
 なんてことを思ってたら、なんだか楽しくなってくる。

「さて、二人で次の授業の予習でもしようか」

 楽しそうにしている左京の考えを邪魔するように、修はノートと教科書を取り出した。

「あっ、うん」

 その腹の内などまったく知らぬ左京は、真面目な修に続けと、気持ちを引き締める。
 実は左京も学年のトップテンに入るくらいの秀才だ。一般常識は皆無だが、頭のできはいいらしい。
 休み時間に並んで勉強を始める二人を、周りは信じられないものを見るような目で見ていた。
 


(あれ?)

 部活動をしていない左京は、その日夕方には帰宅した。
 いつものように自分の部屋に入ったのだが、一瞬間違えたのかと開けたばかりのドアを閉める。
 花園家は、呉服屋を営んでるわりに、洋風の洒落たレンガ造りの家だ。
 生まれた時からこの家に住んでいるが、自分の部屋を間違えたことなど一度もない。
 左京は再度部屋のドアを開ける。

「こんにちはー」

 が、やっぱりそこにはおかしな光景が。
 何故か左京の部屋の左京のベッドに、見知らぬ女の子が寝ていたのだ。
 それも、セミヌード。布団で下半身は隠れているが、上半身はブラジャーしかつけてない。

「……なにしてんの? それより、誰?」

 悪びれもなく手を振ってる女の子に、左京は遠慮がちに尋ねる。
 なんとなく予想はついたが、ほっとくわけにもいかないだろう。

「右京君の彼女のクミでーす! 左京君だよね? 噂通り、右京君にそっくりだねー」

「まあ、右京ちゃんのほうが身長あるけど」

「でも顔は君のほうが綺麗だよー」

「ありがとう……じゃなくて!」

 兄の右京の彼女だというのは予想通りだが、なんでこの部屋にその彼女がいるんだろうか。
 飛びついてきそうなクミをかわし、左京は右京の姿を捜す。

「右京ちゃんは?」

「なんか用事だってー。多分、他の女のとこに行ったんじゃない?」

「そう……で、なんで僕の部屋にいるの?」

「右京君の部屋には別の子いるから。ねーねー、それより私たちも楽しんじゃわない?」

 突っ込みどころが満載すぎて、左京は軽く額を押さえた。
 右京というのはそういう人間なのだと、左京はとっくに諦めていたが。
 とりあえず、今はクミを追い出さなければ寛ぐこともできない。

「悪いけど、僕忙しいから出てってくれる?」

「いや〜ん。クールなのも噂通りなんだ〜! じゃあ、暇な時にでもヨロシク」

 そう言うと、クミは寒い格好で左京の部屋を出て行った。
 クールと言われたが、そんなに自分の態度は冷たかっただろうかと、左京は人知れず落ち込む。

(右京ちゃんのようにはうまくできないよ)

 右京は悩みの種であると同時に、左京のコンプレックスを増幅させる存在だ。
 お手本にする必要などまったくないのだが、社交的な右京が心から羨ましいと思う左京なのであった。
 
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