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□ブラックストロベリー
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そんなことないと言いたかったが、思い当たる節がいくらでもある。
でも、どこが悪いのかが分からないなー。
「そんなことより、冷めないうちにどうぞ」
うーん、と首を捻っていると、ココアを目の前に突き出されて、俺はしぶしぶ口に運んだ。
「ふぅ……」
生き返る。冷え切っていた身体が次第にぽかぽかとしてくる。
ついでだから、ケーキも食ってやるか。いつものガトーショコラに、クリームとジャムみたいのが乗ってるだけだけど。
だけど、それを一口放り込んで、俺は目を見開いた。
「うわっ、美味しい。いつものと全然違う」
なんていうか、甘めのクリームがビターを抑えつつ、甘さを酸味のあるソースを抑え……。
これこそ、奇跡の黄金率!
「気に入っていただけました?」
「うん。店で出したほうがいい――クシュッ!」
つか、雨に濡れてんだから冷房切れよ。鼻水垂れてきたし。
なんか、せっかくあったまったのに、身体がガクガク震えてきた。
そんな俺を見て、黒沢君は優しく微笑む。
「シャワー浴びて行ってください。二階が自宅になってるんです」
どうしよう……そう言ってもらえるのは有り難いけど、裏があったりして?
結構意地悪なことも言われたし、この笑顔に騙されちゃいけない気がする。って、今更か。
「お金取んの?」
「まさか。ケーキもココアもサービスですよ」
「いや、これは払うよ」
俺って、そんな悪人顔かな? かっこいいとか綺麗とか、よく言われるけど。
「いいんですよ。すべてサービスですから。それに、代金の代わりに別のもので払っていただきますし」
やっぱり、なにかは取るんだ。それとも、やな客でも、お客様は大切って?
つまり、これからも来てくださいってことだよな。
とりあえず、通されるまま俺は黒沢君の自宅に上がった。
なんだか微妙な雰囲気のまま、部屋着とバスタオルを貸してもらい、風呂に入る。
「俺……なにしてるんだろ?」
俺は、黒沢君とお友達になりたいと思っただけだ。
なんか違うような気がしなくもないけど、裸の付き合いって言うし、ここは通らなきゃいけない過程なのかな。
「背中、流しますよ」
「わっ!」
とかなんとか考えていたら、腰にタオルを巻いた黒沢君が浴室に入ってきた。
な、なんかドキドキする。均整のとれた逞しい身体。同性相手なのに、思わず見惚れてしまいそうだ。
「いや、いいよ。自分で洗ったほうが早いし」
「そんなこと言わず」
「恩着せがましいことすんなよな」
文句をいいつつ、俺は黒沢君に背中を向けて座った。正直に言うと、かなり恥ずかしいのだ。
初対面じゃないといっても、こうして話すのも初めてな相手に素の自分を見られるのは。
「涼さんは、根本的なことがなにも分かってないんですね」
「なにが――っ!?」
黒沢君がなにを言いたいのか分からなくて、振り返ろうとしたら、後ろからきつく抱きしめられた。
もう、なにがなんだか分からなすぎる。
「なにしてんだよ! 離せよ、バカっ!」
俺はジタバタと暴れるが、黒沢君の腕の力は一向に緩む気配がない。
(これが友達になる儀式とか?)
んなバカな……。
いや、でもそう考えると、今まで儀式をこなしてこなかった俺に友達がいないのも頷ける。
(俺、実は世間知らずだったのか?)
目から鱗の、新事実発覚。根本的なことが分かってないって、このことだったのか。
じっとしていたら、黒沢君が耳に唇を寄せてきた。くすぐったくて、身を捩ろうとするが、やっぱり動けない。
「初めて見た時から、ずっと思っていました」
「えっ?」
抑えられた声に、なにか特別な意味合いを感じて、俺の胸はドキッと高鳴る。
これはもしかして……告白されちゃったりしたりして。
「涼さんは、男に嬲られるための存在だって」
「はっ?」
しかし、続けて耳に入ってきた台詞は、その穏やかな声とは裏腹なものだった。
どうもこの黒沢君ってのは、今まで出会った人々とタイプが違くて戸惑う。てか、黒沢君こそ、かなり性格悪いんじゃないの?
「分からないなら、しっかり身体に教えてあげますよ。そのうち、女なんて相手にしてる暇なんてなくなる」
「……アッ!」
突然乳首を摘まれて、俺はあらぬ声を上げてしまった。
予期せぬ事態。というか、こんなことされたら驚くのが普通だ。
「な、なにしてんだよ! 俺は男だぞ!」
告白されるんじゃ……と、ときめいてたのも忘れて俺は黒沢君に抗議する。
「分かってますよ。胸は平らだし、股につくものちゃんとついてますからね」
が、黒沢君はまったく動じてないようだ。
そういう問題じゃないんだけど、わざわざ突っ込む気にもなれない。
「可愛い。大丈夫……僕がしっかり開発してあげますよ」
「はぁ!? 開発ってなんだよ――あぁっ!」
大丈夫じゃないことを囁かれながら、ギュッと乳首を潰されて、俺は身体を仰け反らせる。
どうしたことか、それで俺は感じてしまったらしく、股についてるものがちょっと反応してしまった。