中編集

□Crazy Heart
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「んぁっ、あぁぁぁっ!……っ、つか、いきなしかよっ!」

 指を引き抜かれたと同時に、貫かれていた。
 予期していなかった突然の挿入に、身体は一瞬だけ強張る。
 しかし、中里と受け入れることに慣れているそこは、すぐに嬉しそうに与えられた肉棒をしゃぶり始めた。

「やっ……あぁ……っ」

 悲痛な声を上げながらも、俺の身体は着実に蕩けていく。
 中里もすべてを収め切ると、安心したような、満足そうなため息を吐いた。

「いやらしいな。まだなんもしてないのにギュウギュウ締めつけてきて、ココまで勃たせて」

「……あっ!」

 敏感な勃起の先端を弾かれて、さらに中里を締めつけてしまう。
 そのせいで、余裕だった表情がわずかに顰められ、切羽詰まったものに変わる。
 俺だけに見せる歪んだ顔。その顔が一番好きだなんて、俺も歪んでるのだろうか。

「もう少し、ゆっくりやろうよ」

「はっ!?」

 中里は呆れたように俺を見下ろして、そんな台詞を吐いてきた。
 なんだよ。それじゃあまるで、俺が焦ってるみたいじゃねえか。

「たまには、激しくないのもいいだろ?」

「けど、時間っ!」

 なんで朝に限って、そんな気分になるんだ。
 男は多少の無理は利くからって、いつも人を手荒く扱うのは、お前のほうだろ。
 よりによって、どうして今日なんだよ……。

「今日は行かせない。足腰立たなくさせてやる」

「えっ? あっ……あんっ、あっ……!」

 わけのわからないことを言われ、内壁を逞しいものでゆっくり擦りつけられると、思考が一気にそっちに傾く。

(なに考えてんだ……)

 仕事に遅れて困るのは中里のほうじゃないか。
 親のスネをかじって、大学院に通ってる俺とは違う。れっきとした社会人だ。
 けれど、俺が文句を言う前に、中里は早くも仕掛けてきたのだ。

「俺とのセックス、大好きだもんな……お前」

「どっちがっ!」

 まだ脱がされていない上半身を、パジャマの裾から侵入してきた手に撫でられる。
 腹部から胸元へ、ゆっくり、ゆっくりと両手が這い上がってくる。ゾクリ……と、俺の身体に快感の電流が走った。
 キュッと、両方の乳首を乱暴に摘まれて、俺は呆気なく堕ちていく。
 他の動きが穏やかだったぶん、その刺激は余計強く感じられた。

「あっ、あっ……もっと……もっと奥までっ! 足りない……中里、お願いっ!」

「ダーメ。ったく、相原はすぐ快感に流されるんだから」

 男に抱かれる身体にしたのはお前だろ……なんてことは、悔しいから言わないけど。
 でも、これを知るまでは、本当に女の子とのセックスが俺のすべてだったんだ。こんなにハマるなんて、思ってもみなかった。

(……どうかしてる)

 俺らしくもない。七年間ずっとこんなことを続けている。
 今では、こいつとのセックス以上に熱くなれるものを知らない。けど、無意味なプライドで、必要性がなくても女を抱いている。

「いやらしく誘ってみろよ。そしたら、望み通りしてあげるから」

「……かったよ」

 出かかった罵声を飲み込んで、俺は中里の首に腕を回した。
 こいつがどうすれば満足するかなんて、今では手に取るようにわかる。それだけ、何度も何度も数え切れないほど抱き合ってきたんだ。

「んっ……」

 薄くて形のいい唇に舌を這わし、くすぐるように舐め上げてから口づけを深くしていく。
 舌先を噛み、唾液が溢れるまで絡めとっても、まだ足りないんだろう。
 キスの合間に、俺はパジャマのボタンを自ら外していった。

「真っ赤に腫れてるね。昨日、俺が吸いすぎたせい? それとも、今弄ってあげたせい?」

 現れた胸元に視線を流して、中里は意地悪な質問をしてくる。
 そこは自分でも目を逸らしたくなるほど、いやらしく赤く腫れてツンと尖っていた。

「……ん、あっ、どっちもだよ。あんま、調子のんなよっ」

「どっちにしろ、俺のせいだな」

 耐えきれず、唇を解いて乱暴な言葉を吐いてしまったが、何故か中里はその答えが気に入ったらしい。
 どこか嬉しそうに笑うと、腰を動かすスピードを上げてきた。
 深い場所で繋がったことで、身体は悦びを訴えてガクガクと震え出す。
 
「あっ、あぁ――っ!」

 敏感な箇所を不意に掠められ、俺の口から嬌声が上がる。
 こんなの、ただ中里を喜ばせるだけだ。わかってるのに、悔しいのに、勝手にこぼれる喘ぎを止められない。

「これじゃあ、女も抱けないな。うまい言い訳でも考えてやろうか?」

「あ、ンッ……結構だ。脱がないでやればいいだけだろ」

「うわ〜、ひどい男」

 いったいなにを考えているんだろうか。何年つるんでいても、中里の心はわからない。
 わかったと思っても、次の瞬間にはいつも必ずはぐらかされてしまう。

「お前が言うなよっ!」

 感情的になって叫んでも、胸のつっかえは取れやしなかった。
 男とやるのが楽だと言って、この関係をズルズル続けてきたけど……。
 女はつねに山ほどいるのに、男は俺しか抱かない。きっと、中里に抱かれたい男だって、いくらでもいるはずだ。それなのに、まるで俺しか見えてないかのように……。

「ほんと俺たち身体の相性いいよな。ここ、俺専用だろ? 誰にも使わせたりするなよ」

「……っ、んなの知るかよ!」

「使わせたら、許さないからね。これは、俺だけの形に合ってればいいんだ」

 一瞬、その言葉が独占欲かと思ってしまう。そんなわけないのにな。
 身体の相性がいい。この関係を続けてる理由なんて、それしかないじゃないか。

「こんなにしたんだ……責任、とれよっ!」

 奥を攻められながら、俺は胸を中里に突き出した。
 これ以上腫れたら、少なくても今日は誰ともやらないから。

「責任なら、いくらでもとるよ。だから……今日は大学に行くな」

「なっ……!」

 突き出した胸に唇を寄せると、中里はそう言って繋がりを限界まで深めてきた。
 激しい快感に攫われそうになりながら、俺はその意味を考える。

「なんで……あっ! あんっ、中里……やっ、深すぎ……っ!」

 今日中里が泊まったことに、朝からやり出したことに、意味があったとでも言うのか。
 けれど、真相を確かめる前に激しく腰を打ちつけられ、俺は快感を追う意外、なにも考えられなくなってしまった。
 
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