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□恋の法則
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翌日、宣言通りに尾崎はまた俺の教室にやって来た。
ちょっと来いと言われたから、ギャーギャーうるさい堀田の制止を振り切って、俺は尾崎の後について行った。
ほら、もしかしたら俺と仲良くしたいのかもしれないし。一応、念のためな。
「由宇に近づくな」
じゃなかったら、きっと俺の心配をしてくれてるんだ。
姫と噂になんてなったら、姫の取り巻きとかに俺が嫌がらせされるかもしれないしな。
「俺はノーマルだ」
とりあえず、安心させておこう。てか、校舎裏とかって、告白のシチュエーションにはもってこいな場所だよな。
ちょっと緊張してみたりして。
「由宇みたいに可愛い奴に好かれて、いつまでもそんな台詞が吐けるはずない」
って、ガクッ。断言されちゃったし。
マジでどう頑張っても成瀬なんかに勃たないんだけど。
「まあ、確かに可愛いけどな」
ちっちゃいし。それにちっちゃいし。
「ほら、やっぱりな」
いやいや、そうじゃないから。
あー、あれか? 話題を膨らまそうとしてくれてるだけか。つっても、楽しい話題なんて思いつかないしなー。俺、しゃべんの苦手だし。
「あれは甘やかされて育ったから、世間知らずなだけなんだ。お前みたいなワルに騙されて、傷つく姿を見たくない」
ワルって……これでも俺、優等生なんだけど。テストの成績だって、毎回トップ3以内キープしてるし。
あっ、来た。そろそろ限界だわ。泣きそ。
「なんなんだよ、さっきからその見下した態度! 王子は一般生徒と口も利けねえってか!?」
キレんなよ。俺は泣きたいんだから。
はぁ……雨まで降りそうだし。俺の心は既に土砂降りだけどさ。
「シカトかよ」
どんよりした雲を見てただけなのに、何故か舌打ちされた。
あれなのに。上を向ぅいてぇ歩こぉうぉぅぉぅぉぅ……って奴なのに。
「あ?――うわっ」
ボツッと目に雨が落ちてきたと思ったら、突然あらぬ方向からグイッと腕を引かれて、俺はショック死しかける。
なんか、目元を手で覆われてるらしい。なにも見えん。
「おい、尾崎。俺のベイビーちゃん泣かせないでくれる?」
この声は……。
「部長!? なにしてんすか、そんなとこから」
「ちょっとー、駿君は俺のなんだけど!」
「わりわり。じゃあ、俺と要のってことで」
えっ、えっ、えっ? 康介先輩と、要先輩だよな。
そんなとこって……たしか、俺たちがいたとこは丁度保健室の窓のある方向だったような気もする。
もぞもぞと動いていたら、やっと手を離してもらえた。
「あ、こんちは」
とりあえず、挨拶が先か。
振り返れば、窓から上半身だけ乗り出した康介先輩と、要先輩が口論していた。
「聞いたか? こんちはだと」
「はい。こんにちはー」
けど、俺を見た途端に吹き出してくる。
挨拶しちゃ可笑しいのか? 礼儀だよな?
「部長、こんな奴と知り合いなんすか?」
「こんな奴〜!? ひどいこと言うなよ! 駿が可哀想だろ。つか、今日お前腕立て1000回だ」
「えぇーっ!?」
あっ、そうか。康介先輩ってバスケ部の部長だったんだ。どーりで、長身でいい身体してるわけだよな。
「こっちが先約だから、お前はさっさと去ね」
いや、尾崎が先約だったはず。
「分かりましたよ……じゃあ、失礼します」
尾崎は苦い顔をしながら、俺に背を向けた。
まだなにも話せてないのに……。
「すっぽかされたのかと思ってた。よしよし、俺たちがついてるからもう安心だよ」
そう言うと、要先輩はポンポンと俺の頭を撫でてくれる。
なんかホッとして、目頭がじんわり熱くなってきた。
「早く中こっち来いよ。雨降ってきたぞ」
康介先輩は、涙が滲む目元を拭ってくれる。
あっ、もう泣く。っていうか俺は既に泣いていた。
涙がこぼれないように上を向いて歩きながら、俺は保健室に向かった。
途中で柱にぶつかってべつの涙が出てきたけど関係ない。感動です。これは感動の涙ですから。
「駿君来た〜」
貸し切りを意味する札のかかった保健室に入ると、要先輩が駆け寄ってきて抱きしめてくれる。
ああ、いい香り……うっかり夢の世界に旅立って行きそうだよ。
しかも、こんな手放しで歓迎されるなんて、生まれて初めての経験だ。ほんと、生きててよかった。
「大丈夫か? でっかいタンコブできてるぞ」
「大丈夫です。よそ見してて、ちょっとぶつけただけなんで」
「意外に鈍いんだなぁ」
「ますますツボなんだけどー」
笑顔で先輩たちに迎えられた俺は、促されるままベッドに座る。
そういえば、貸し切りにするには賄賂が必要なんだよな?
「俺も賄賂代払います」
「お前、そんなの信じてんのか? 賄賂なんて渡してねえぞ」
「保健室の先生と仲良くなれば、簡単に貸し切りにしてもらえるよー」
えっ? そうなの? てか、先生がそんなんでいいのかよ……。
まあ、外でホテル使われるよりはマシなんだろうけど……って、ここ男子校!
どうやら、この学校に欠けているのは『常識』というものらしい。
「そろそろ時間ももったいないし、お勉強始めよっか」
って、そうでもなかったみたいだな。
「はい」
なんだ。勉強のことだったんだ。いろいろ教えてくれるって言ってたしな。
だったら図書室でもいいような気がするけど、場所なんてどこでもいいか。
「じゃあ、服脱いで」
「……は?」
「俺が脱がしてやってもいいぞ」
「わっ!」
お勉強って、保健体育の授業!?
ビックリして固まってる間に、服とか脱がされちゃってるし! やっぱり、ここに常識はないのかよっ!