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□恋の法則
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えーっと、今更ですが白状します。俺、かっこいい男には憧れるけど、決して自分がかっこよくなりたいとは思ってません。
理由は分かりません。でも、小さくて可愛らしい同級生を見ると、なんだかイライラする時があります。
「もしかして……」
ポツリポツリとそのことを話したら、先輩たちは真剣に相談に乗ってくれていた。
そして、話しを終えると、綺麗なほうの先輩が俺を哀れむような眼差しを向けてくる。
「あっ、その前に自己紹介しよう。俺は朝倉要。こっちは大沢康介。君は穂積駿君だよね?」
「……はい」
なんで知ってるんだろうと首を傾げれば、また「有名だよ」という答えが返ってきた。
「駿君はてっきりタチ君かと思ってたけど、本当はネコちゃんだったんだね」
「つーか、お前自分でも気づいてないだろ?」
いや、猫じゃないし。どっちかって言えば、犬に例えられるけど。
「うーん。これは大変そうだ。駿君は、自分がノンケだと思ってるでしょ?」
「ええ、バリバリノーマルです」
「やっぱりな」
きっぱりと答えたら、二人同時にため息をつかれた。
なんか、俺困らせるようなこと言ったか?
「女の子は? そんな好きじゃないでしょ?」
とりあえずその質問には頷いといた。
でも、どうして分かったんだ?
「朝倉先輩は、人の心が読めるんですか?」
今度は二人同時に吹き出された。べつにおかしなことを言った覚えはないんだけど。
「やっだー。しかもド天然! 康介、この子超貴重だよ! あっ、俺は要でいいから。名字で呼ばれるの嫌いだし」
「マジだな。しかも、これで泣き虫だし。俺も名前で呼べよ。いろいろ教えてやる」
「はぁ」
二人はヒィヒィ言いながら、まだ笑ってる。
なにが貴重なのかも、なにがこれでなのかも分からない。
どうやら俺は、二人のなにかにヒットしてしまったらしい。
そんなの、まったくもってありがたくはないけど。でも、久しぶりに親しい人間ができたみたいで嬉しい。自分なりに、かなり頑張ってしゃべったし。
ん? そういえば、俺って堀田以外に友達いない? もしかして、嫌われ者? だから有名だったのか……あっ、また泣きそ。
「明日は昼休みにおいでよ。もっとゆっくり悩み聞いてあげる」
ドーンと落ち込んでいたら、きゃ、か、要先輩が優しい言葉をかけてくれた。
うぅ……今日はついてないと思ってたのに、神様は俺を見放したわけじゃなかったみたいだ。こんな喜びを感じたのはいつぶりだったろうか。
「そんなに怖い顔してねーで、もうちっと肩の力抜けよ。あんましゃべらねえし、緊張してんのか?」
いやいや、緊張はしてるけど怖い顔なんてしてないんですけど。
しかも、今日は一週間分くらいおしゃべりしたし。分かってもらえないのがつらい。でも、なんて言っていいのかも分からないんだよな。
「まあ、いいじゃん。ゆっくり打ち解けてくれれば」
そんな俺を、要先輩がフォローしてくれた。
俺は今まさに出ようとしてる涙を、グッと堪える。
「……ありがとうございます」
要先輩は綺麗で、そんでもって優しい。身長はそこそこあるのに、身体は華奢で。こういうのもいいな……ついうっとり見惚れちゃいそうだよ。
「ちゃんと来いよ。取って食ったりしねえから」
「はい」
康介先輩は男前で包容力がありそうだ。うん。いいな……どうせなら、取って食われてみたいかも。
あれっ!? 俺、今なに考えてた? 思考がおかしい。絶対におかしいぞ。
「じゃあ、明日……」
ちょっとパニクりながら、俺は保健室を後にした。
どうやら頭が混乱しているようだ。仕方ない。今日一日、いろんなことがあったからな。
身長のことなんかすっかり忘れてご機嫌な俺だったが、教室に戻る途中で思わぬ人物と遭遇してしまった。
正確には“人物たち”だ。
「あっ、穂積君だ! そろそろ、僕と付き合ってくれる気になった?」
あのー、まだ半日も経ってないんですけど。
しかも、隣でものすごく睨んでる奴いるし。
「由宇、行くぞ」
「ちょっと……腕引っ張んないでよ、久弥っ! 僕、穂積君と話してるんだから」
うーん。理想的なカップルの身長差だ。でも、二人は付き合ってるわけじゃないんだよな?
ジーッと尾崎を見ていたら、目でなにか合図された。
なんだろう。こういう秘密のやりとりって、ドキドキするよな。
「もうっ、二人とも、僕のために睨み合いなんてしないでよ!」
は? それじゃあ、俺と尾崎が成瀬を取り合ってるように聞こえるぞ。
「久弥、今回は邪魔しないでよね。僕、穂積君に本気なんだから」
「邪魔なんかしてねえだろ」
「そう言って、いつも裏でコソコソ動いてるくせにー」
ああ、なんだ。そうだったのか。さっき俺んとこ来たことを黙ってろってわけね。
それより、完全に俺だけ浮いてるし。邪魔なのは俺のほうだな。
心配しないでいいよ。べつに、気にしてないから。こんなの慣れっ子だし。
「あっ、待って! 穂積君〜! クールなとこも素敵!」
「由宇、いい加減にしろよ」
はいはい。勝手に二人でイチャついててください。俺は虚しく退散しますよー。
「結果どうだった? やっぱり伸びてただろ」
「伸びてない」
「嘘だー」
「伸びてない」
堀田よ、俺の身長が伸びて得するのはお前だけだろ。
俺には、なに一ついいことなんてないんだからな。
「まあ、どっちでもいいや。それより今日、ナンパ行こ――グヘッ!」
割れろ! 今日一日のうっぷんを、俺は堀田の尻にぶつけてやった。
堀田のおかげで先輩たちと仲良くなれたってことは、今はどっかに置いとこう。