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□恋の法則
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「おい、聞いてんのか」

 ぼーっとしてたら、イライラとした声が降ってきた。

「俺は二組の尾崎久弥。由宇の幼なじみって言えば、話は早いか」

 早くない。ナイトがなんだって? とりあえず俺に分かるように説明してくれ。

「姫がこいつに告ってきたんだから、お前が出る幕ないんじゃねえの?」

「部外者は黙ってろよ」

「お前もだろ!」

 助けを求めて堀田を見れば、いつの間にか尾崎だっけ? と、楽しく話していた。
 羨ましい。俺って人見知りだから、初対面の人間とうまく話せないんだよな。

「穂積、ちょっと顔貸せよ」

「あ?」

 やっと話せるチャンスだと思ったら、予鈴が鳴り響く。
 尾崎は軽く舌打ちすると、「また来る」と言い残して行ってしまった。

「なんだったんだ?」

「お前の鈍さは病気に近いよ。分かった、授業中に説明文回してやる」

 さらっと病気とか言われるし。
 今日の俺はとことんついてないらしい。厄日かよ。

「はい。席に着けー。授業始めるぞ」

 ため息を洩らす間もなく、教師がやってきてしまい、俺は慌てて教科書を取り出す。
 それからおよそ10分が過ぎたころ、後ろの席から、文字でびっしり埋められたレポート用紙が回ってきた。
 堀田の奴、無駄にマメなんだよな。はぁ……やだなぁ、こんなの読みたくないし。でも読んであげなきゃ悪いよな。

『つまり、三人の関係はこうである』

 から始まり、尾崎が成瀬を守ってるということや、俺が尾崎にとって恋敵だということが、面倒くさい言い回しで書かれていた。
 だから、なんで俺が恋敵になんなきゃいけないんだよ。成瀬を奪う気なんてないし。
 どちらかと言えば尾崎と仲良くなってみたい。がたいがよくて、精悍な顔立ち。男としては憧れるよなー。
 言いたいことが山ほどあったから、俺は授業が終わると速攻で堀田の席に向かった。
 堀田は、ちょうど教科書をまとめて立ち上がったところだ。俺に気づくと、堀田は首を傾げる。

「あれ? 駿、身長また伸びただろ。俺とあんま変わらなくなった」

「は?」

 お前が縮んだんじゃねえのか? 俺はついこの前まで、173センチだったぞ。堀田は180センチだったかな。

「保健室に、測りに行くか」

「一人で行けよ」

「お前が行かなくてどうすんだよ」

 それより、俺はさっきの続きを聞きたいんだけど。

「ますますモテモテになるな。女の子わっさわっさついて来るぜ」

 んで、どうせお前が食うんだろ?
 鼻の下、だらしなく伸びてるんですけど。嫌だな。一緒に歩いてたら、こんなのと友達だと思われるじゃん。
 あれ? 気づいたら、俺は堀田と並んで保健室へ続く廊下を歩いてた。


「ちっ、留守だってよ。職員室にいるのか。しゃーない、また来るか」

 保健室に着いたら、札がかかってて、養護教諭はいないらしい。
 どうせここまで来たなら、事実をはっきりさせておきたい。まあ、俺が伸びたわけじゃないだろうけど。

「べつに身長測るくらいいいだろ」

「お前って、時々大胆だよな」

 簡単な造りのドアの鍵を、名札のピンでガチャガチャ開けてたら、堀田がしみじみとつぶやいてきた。
 言葉数が少ないってのは、いろいろと誤解を招きやすいんだよな。俺はこれでも行動的な人間だし、意外に野心家だ。

「おじゃましまーす」

 堀田が無人の室内に挨拶してる間に、俺は奥に片づけられた身長測定器に向かう。
 しかし、カーテンの閉められたベッドの横を通ったところで足を止めてしまった。

「誰か入ってきたし」

「はぁ? お前、鍵かけただろ」

 ひそひそと洩れてくる会話。どうやら、今は『貸し切り』だったみたいだ。
 にわかには信じたくないが、ここで励む生徒たちがいると、噂で聞いたことがあった。
 養護教諭になにかしらの賄賂を送れば、保健室を貸し切りにしてくれるらしいと。
 つまり、今は真っ最中だったわけだ。でも、俺には関係ない。

「どうぞ、俺のことはお構いなく」

 俺はカーテンの向こうの人間に、一応声をかけておく。
 したら、中からガサガサっと衣擦れの音がしてきた。

「駿?」

 ああ、こいつの存在もあったんだっけ。何人もいたら、さすがに集中できないよな。

「堀田、お前は帰ってろよ。見つかったら面倒だぞ」

「それもそうかー。じゃっ、結果は教えろよ」

 堀田が消えた後、俺はさっさと上履きと靴下を脱いで、測定を済ませてしまう。

「うん。173だ」

「おいおい、それじゃ駄目だろ? ちゃんと背筋伸ばせよ」

「どんな失礼な奴かと思ったら、一年の王子じゃん」

 測定器を降りようとしたら、カーテンが開かれていて、綺麗な顔したのと、男前の二人が俺を見ていた。
 やっぱり、今までヤってたんだろう。二人とも制服乱れまくってる。
 つか、人いんの分かってんなら直そうよ。

「俺が測り直してやるって」

 いや、そっちは直さなくていいし。
 親切なのか、なんなのか、男前の方が俺の身体を無理やり測定器に押し戻していた。
 どうやら、三年の先輩たちみたいだ。逆らわないほうがいいかな。

「ほらー、思った通り。176あるじゃねーか。大台までもう少しだぞ。よかったな」

 おとなしく身長を測られてたら、ニッコリと笑みを向けられた。
 なにげに、この先輩いい人? てか、えっ? ウソ! また伸びたのかよ。もう身長はいらないから!

「どうした?」

「あー! 康介が王子泣かせた!」

「ええっ!?」

 ええっ!? 俺、泣いちゃったよ。なんで?
 
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