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□IMITATION
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「津田……」

 かけれるわけがない。そう思った。お礼さえ言えなかったのに。俺をバカにしてる奴なのに。
 だけど、気づいたら呼び出し音がかすかに響いていて、無意識に通話ボタンを押してたことを知った。

(出るなー出るなー)

 そう念じながらも、本当は出てほいしいと心は叫んでる。
 あの日ヒーローに見えた津田。すがれるのは、お前しかいないって。

『はい――』

 あっ、出ちゃった。
 ハッとして鏡に映る自分に目をやる。安心しきったように笑ってる。
 なんで津田なんか……とか思ってる場合じゃない。背に腹は代えられないからな。

『もしもし? イタズラだったら切るぞ』

「あっ、あの……っ、俺だけど」

『オレオレ詐欺?』

「じゃなーいっ!」

 ああ、どうしたもんだろうか。緊張しすぎて自分の名前も言えねえなんて。
 黙ってたら切られちゃうよ。しかもこの番号、着拒されたら、二度と津田に連絡できないんだ。

「俺っ――」

『もしかして、泉か? どうした、なにかあったのか?』

「……うん」

 な、なんだよ。どうして呼び捨てなんだよ。どうして、そんな切羽詰まった声出してんだよ。
 俺のこと、バカだと思ってるんだろ?

『今すぐ行くから』

 津田はまだなにも話してないのに、慌てたように携帯を切った。
 津田に逢える。恐怖なんて、もうとっくに吹き飛んでいた。
 


 本当に、すぐ津田は来てくれた。息を切らせて部屋の前に立ってる姿を見たら、思わず抱きついてしまったんだ。
 よしよしと、子供にするみたいに頭を撫でられる。あの日の津田だ。優しくて、かっこいい……とは言いすぎか。

「ここに泊まってやろうか? それとも、うちに来るか?」

「行っていいの?」

 できれば、こんな部屋になんていたくない。
 でも、面識もあまりない津田にそんな頼っていいものなのかと、こんな俺でも思ってしまう。

「ああ。先に約束したのは俺だしな。落ち着くまでうちにいろよ」

「そう言うなら、そうする」

「だったら、早く荷物まとめろよ」

「うん」

 おい、俺。ここはありがとうと言うところじゃないのか? でもそんなこと言ったことないし。
 津田が是非とも来てくれって言ってんだから、お礼なんて言う必要ねえか。

「おい、なんでさっきから下着しか詰めてないんだ?」

「盗まれたくないから」

「そんなこともされてんのか……」

 呆れたような言い方にちょっと傷つく。
 俺だって、男のパンツ盗んでどうすんだって思うよ。でも実際に盗られてるんだから仕方ねーじゃん。

「最低な野郎だな。怖かっただろ」

 えっ? 呆れてたのは俺にじゃなくてストーカーの方?

「うぅ……」

 なんだよ。紛らわしい言い方すんなよ。泣けてきちゃうじゃん。
 また津田によしよしされて、俺は広い胸の中でしばらく泣き続けてしまった。
 
「――うわっ!」

 歩いて10分。俺は度肝を抜かれていた。
 津田の住むマンションは、「こんなとこにどんな奴が住んでんだよー」と、前を通り過ぎるたびに思っていた、高層高級マンションだったのだ。

(……こんな奴が住んでたのか)

 って、マンションじゃないよこれ。億ションだって。
 どうしたら、普通の大学生がこんなとこに住めんだよ。

「親の所有物だ。不動産業してるからな」

「へー」

 感心しながら、今更思い出す。
 そういえば、津田って聞いたことあるかも。うちのアパートも、津田不動産とかだったよな?
 俺地元っ子じゃないから、すぐにピンとこなかった。

「もしかして、津田って有名人?」

「親がな」

 ふーん。お坊ちゃま君なわけね。認めたくはないけど、こんなことでビビってる俺って、かなり庶民。
 いやいや……こんなかっこいい庶民がいるはずない。いつかきっと、自分の手で富を得てやるんだ!

「どこでも好きに使っていい。けど、玄関の横の部屋には絶対に入るな。あそこはプライベートルームだからな」

「はーい」

 俺の野望をさらりと無視して、津田はさっさと自分の生活に戻ってしまった。
 禁断の間ってやつか。うちなんて部屋一個しかないから、秘密もくそもないよな。

(はぁ……俺はこのリビングだけで生活できる)

 軽く十畳はあるだろうリビングに置かれたフカフカのソファーに、俺は遠慮なしにダイブした。
 
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