中編集

□IMITATION
4ページ/33ページ

 


「なに言ってんだよ! そんなの、とっくに忘れたよ!」

 さんざん回想つきで思い出してたくせに、俺は強がって津田に食ってかかる。

「キャンキャン、バカ犬みたいにうるさいな……忘れたんなら、そんなムキになるなよ」

 バカにしたように見下す目がムカツク。
 ヒーローは、蓋を開ければこんな奴だった。年下だし。リュウと一緒に入学してきた時は運命さえ感じたのに、こいつは俺をただ哀れな奴としか見てなかったんだ。
 それが悲しい……なんて、絶対に思ってなんてやるかよ!

「ところで、津田ー。泉を抱っこしてくれるって本当?」

 俺が癇癪を起こしていると、呑気なリュウの声が割って入ってきた。

「ああ、俺は別に構わないぜ」

「やりー。じゃあ、姫をよろしく」

「ぅおーい!」

 待て待て待て待て。さっきから誰が姫だって? じゃなくて、なんで勝手に話がまとまってるんだよ。
 俺様の許可を取ってからにしろー! って、そうゆう問題でもねんだけど。

「俺はヤダからな。リュウじゃなきゃヤダ!」

 てか、津田なんか絶対ヤダ!

「「ああ!?」」

 けど、同時に二人に睨まれて、俺は仕方なく抱っこを諦めた。

「リュウ……帰ろ」

 トボトボと負け犬のように歩き出す背中に、突き刺さるような視線を向けられてたことは、俺は知らない。
 


「ねえ、リュウ……俺がいったい何枚のパンツを盗まれたか知ってる?」

「はぁっ!?」

「強姦されかけた時のもあわせて、もう20枚は盗まれたんだぜ? それなのに、あんな言い方ないよなー」

「はぁ」

 リュウは俺に適当に相槌を打つけど、それさえ冷たく感じる。
 なんなの? 皆して俺に嫉妬してんの? こんなにかっこいいから?

「いや、つか、泉が他人にあんな心開くの珍しいよな。いつもの猫っかぶりはどうした?」

「えっ?」

 それって、津田に対してってこと?
 どう見ても、心は開いてなんてないと思うんだけど……。

「一番最低な場面見られてるし、今更じゃん」

「それもそうか」

「リュウ……お前は下僕なんだから、俺の傍にいなきゃダメだぞ」

 なんだか無性に切なくなってきて、俺の口からついポロリと本音がこぼれる。
 独りはヤダよ。彼女なんて、ほんとはいらないんだ。ただ、確実に自分の傍にいてくれる存在がほしい。

「はいはい。わかってますよ。こんな可愛いお前をほっとけないからな」

「バカリュウ。俺は可愛いんじゃなくて、かっこよくて美しいんだ」

「はいはい」

 今は、リュウで我慢してやるけどさ。
 いつか俺のすべてを愛して、受け入れてくれる人間が現れてくれればそれでいい。
 




「――っ!」

 俺は家に着くなり、悲鳴を上げかけた。
 また……干していたはずのパンツが、一枚消えている。しかも今日は、生乾きを覚悟して部屋干ししていたのにだ。

「お気に入りの、華麗なる花柄のパンツが〜」

 恐怖と悔しさで、涙が溢れてくる。
 まさかと思ってテーブルの上を見れば、案の定いつものように手紙が残されていた。

『愛する泉へ――早くお前の可愛い場所を舐め回してやりたいよ。あっ、パンツはいただいた。一万でいいかな?』

 俺は手紙に添えられていた一万円札をつまみ上げて、ポイッと投げ捨てる。
 ついでに手紙はビリビリに破いてやった。

「よくねえよ! 一万もするパンツなんてあるわけねーし」

 それに、可愛い場所ってどこだよ。俺は可愛くないっつうの! そんなこと言うの、リュウくらいなもんだし。

「うぅ……怖くて寝れね〜よ〜」

 俺の住んでるのは、築三年の五階建てのアパートだ。
 アパートながらセキュリティーもしっかりしてるし、部屋は五階だから安心してたのに。

「……リュウでも呼ぼうかな」

 俺は震えながら携帯を鳴らすが、こんな時に限ってリュウは電話に出てくれなかった。

「デートとかだったら殺してやるっ!」

 こんな時、友達一人いない自分が恨めしい。こんなに完璧なのに……どうして誰もわかってくれないんだろう。
 完璧を演じるのだって結構大変なのに。

「女の子じゃ、役に立たねえしな」

 携帯を放り投げようとして、俺はアドレス帳の一つに目を止めた。
 つっても、親合わせて10件しか登録されてないんだけどさ。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ