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□IMITATION
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「なに言ってんだよ! そんなの、とっくに忘れたよ!」
さんざん回想つきで思い出してたくせに、俺は強がって津田に食ってかかる。
「キャンキャン、バカ犬みたいにうるさいな……忘れたんなら、そんなムキになるなよ」
バカにしたように見下す目がムカツク。
ヒーローは、蓋を開ければこんな奴だった。年下だし。リュウと一緒に入学してきた時は運命さえ感じたのに、こいつは俺をただ哀れな奴としか見てなかったんだ。
それが悲しい……なんて、絶対に思ってなんてやるかよ!
「ところで、津田ー。泉を抱っこしてくれるって本当?」
俺が癇癪を起こしていると、呑気なリュウの声が割って入ってきた。
「ああ、俺は別に構わないぜ」
「やりー。じゃあ、姫をよろしく」
「ぅおーい!」
待て待て待て待て。さっきから誰が姫だって? じゃなくて、なんで勝手に話がまとまってるんだよ。
俺様の許可を取ってからにしろー! って、そうゆう問題でもねんだけど。
「俺はヤダからな。リュウじゃなきゃヤダ!」
てか、津田なんか絶対ヤダ!
「「ああ!?」」
けど、同時に二人に睨まれて、俺は仕方なく抱っこを諦めた。
「リュウ……帰ろ」
トボトボと負け犬のように歩き出す背中に、突き刺さるような視線を向けられてたことは、俺は知らない。
「ねえ、リュウ……俺がいったい何枚のパンツを盗まれたか知ってる?」
「はぁっ!?」
「強姦されかけた時のもあわせて、もう20枚は盗まれたんだぜ? それなのに、あんな言い方ないよなー」
「はぁ」
リュウは俺に適当に相槌を打つけど、それさえ冷たく感じる。
なんなの? 皆して俺に嫉妬してんの? こんなにかっこいいから?
「いや、つか、泉が他人にあんな心開くの珍しいよな。いつもの猫っかぶりはどうした?」
「えっ?」
それって、津田に対してってこと?
どう見ても、心は開いてなんてないと思うんだけど……。
「一番最低な場面見られてるし、今更じゃん」
「それもそうか」
「リュウ……お前は下僕なんだから、俺の傍にいなきゃダメだぞ」
なんだか無性に切なくなってきて、俺の口からついポロリと本音がこぼれる。
独りはヤダよ。彼女なんて、ほんとはいらないんだ。ただ、確実に自分の傍にいてくれる存在がほしい。
「はいはい。わかってますよ。こんな可愛いお前をほっとけないからな」
「バカリュウ。俺は可愛いんじゃなくて、かっこよくて美しいんだ」
「はいはい」
今は、リュウで我慢してやるけどさ。
いつか俺のすべてを愛して、受け入れてくれる人間が現れてくれればそれでいい。
「――っ!」
俺は家に着くなり、悲鳴を上げかけた。
また……干していたはずのパンツが、一枚消えている。しかも今日は、生乾きを覚悟して部屋干ししていたのにだ。
「お気に入りの、華麗なる花柄のパンツが〜」
恐怖と悔しさで、涙が溢れてくる。
まさかと思ってテーブルの上を見れば、案の定いつものように手紙が残されていた。
『愛する泉へ――早くお前の可愛い場所を舐め回してやりたいよ。あっ、パンツはいただいた。一万でいいかな?』
俺は手紙に添えられていた一万円札をつまみ上げて、ポイッと投げ捨てる。
ついでに手紙はビリビリに破いてやった。
「よくねえよ! 一万もするパンツなんてあるわけねーし」
それに、可愛い場所ってどこだよ。俺は可愛くないっつうの! そんなこと言うの、リュウくらいなもんだし。
「うぅ……怖くて寝れね〜よ〜」
俺の住んでるのは、築三年の五階建てのアパートだ。
アパートながらセキュリティーもしっかりしてるし、部屋は五階だから安心してたのに。
「……リュウでも呼ぼうかな」
俺は震えながら携帯を鳴らすが、こんな時に限ってリュウは電話に出てくれなかった。
「デートとかだったら殺してやるっ!」
こんな時、友達一人いない自分が恨めしい。こんなに完璧なのに……どうして誰もわかってくれないんだろう。
完璧を演じるのだって結構大変なのに。
「女の子じゃ、役に立たねえしな」
携帯を放り投げようとして、俺はアドレス帳の一つに目を止めた。
つっても、親合わせて10件しか登録されてないんだけどさ。