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□IMITATION
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「抱っこなら、俺がしてやるぜ」

「……ってぇ〜!」

 突然茂みの中から声がして、俺はビックリしてリュウの背中から滑り落ちてしまう。
 そこには、今会いたくない奴ナンバーワンの男が立っていた。
 いつからそこにいたんだろう。もしかして俺たちの話も聞いてたのか?

(……ん?)

 てか、なんでこいつベルトなんて直してんの? 小便でもしてたのか? しかも服とか乱れまくってるし。

「おいおい、津田……うちの姫に変なもん見せないでくれる? これでも純情なのよ」

 なに言ってんだよ、リュウ。えっ? この状況わかってないの俺だけ?

「悪いな。あの女、すぐやりてーってしつこくてよ」

「だからって、場所を選べよ」

 二人の視線の先を追って茂みの奥に目を向けると、そこにはしどけない姿の女の子が……。

「……っ!?」

 しかもミスキャンパスってか、麗子じゃん! 元カノだよ!
 あ、あれだ。これは、あの……アオ、青姦ってやつ? じゃなくて、どこでヤってんだよ!
 こんな破廉恥な男に、俺のどこが劣るっていうんだ。

「おお、見事に首まで真っ赤」

「色白だから目立つんだよなー」

「え、あ、えっ?」

 もう俺はパニック寸前だ。わけわからん。どこにツッコミを入れるべきなんだ?

「純情……ね。そういやぁ、あん時も強姦されそうになったって、ビービー泣いてたな」

 津田、津田尚哉は楽しそうに舌なめずりをして俺を見下ろしてきた。
 年下とは思えない迫力に息を呑む。
 そして、俺は、思い出したくもない最悪な記憶を思い出してしまったのだ。
 


 それは、今年の春先の話。買い物に出かけた帰り、家路を急ぐ途中だった。

(暗くなってきたな……早く帰ろう)

 俺は過保護に育ったせいか、夜の七時以降は一人で外を出歩いたことがなかった。
 その日は買い物に夢中になって、時計はいつの間にか七時をゆうに超えてしまっていたのだ。
 一人暮らしを始めてからもその門限は守られており、俺は急ぐあまり誰かにつけられていることに気づかなかったんだ。

「――んんっ!」

 口を大きな手で塞がれて、悲鳴も上げられずに人気のない場所に連れ込まれた。
 抗おうにも、男の力は強すぎて、俺じゃ太刀打ちできなかった。
 男は荒い息を吐きながら、俺の上にのしかかってきた。服はビリビリに裂かれて、裸に剥かれていく。
 怖くて声も上げられなかった。けど、初めて他者に大切な場所を握られる刺激は強すぎて、身体が先に反応してしまったんだ。

「……あっ」

 ビクンと身体が跳ね、唇から甘い声が漏れる。
 それに気をよくしたのか、男は大胆に俺の両脚を大きく広げ、そこを覗き込むように顔を近づけてきた。

「やぁぁーっ! やめて……誰か、助けて、パパーママー」

 恐怖のあまり泣き叫んでいた。男が一瞬ひるんだように、手の力を緩める。
 その隙をついて、俺はズボンを掴んで逃げ出した。パンツがなかったけど、気にする余裕などなかった。
 
 しばらく走って、男が追ってこないのを確認すると、俺はその場にへなへなと崩れ落ちていた。
 ただ蹲って、声を上げて泣き続ける。

「――どうした?」

 ビクッとして振り返ると、そこには長身の青年がいて、心配そうに俺を見下ろしていた。
 そして、無惨な俺の姿を見ると、自分の着ていたジャケットを貸してくれる。

「ふぇ……」

 その優しさに俺は安心して、今起きたことをすべて話し、彼の広い胸の中で泣き喚いた。
 彼はずっと優しく俺の背中をさすってくれていた。

「大丈夫だ。そいつが来たら、俺が守ってやるから」

 耳元でそんな台詞も囁かれた。心臓がドキッと音を立てる。他人をかっこいいと思ったのは、生まれて初めてだった。
 この時は、年上の、大人の男に見えた。そしてまるでヒーローのように輝いても見えてしまったんだ。

「俺は津田尚哉。またなんかあったら連絡しろ」

 結局家まで送ってもらい、別れ際に携帯のナンバーを渡された。胸がずっとドキドキしていた。
 だけど、落ち着いて自分がどれだけ恥ずかしいことをしたかと思えば、お礼の連絡一つできなかったのだ。

「津田……尚哉?」

 名前を口にすれば、鼓動は速まり、顔が熱くなってくる。
 この感情がなにか、俺が気づくことはなかったのだけれど……。
 
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