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□彼の背中
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卒業間近の校庭。桜の木はもう蕾をつけようとしているのに、気温だけはやたら寒く感じる。
少年は自分の身体を抱きしめて、寒さと驚きで唇を震わせていた。
「……えっ?」
突然吹いた風に言葉を攫われて、一瞬、聞き間違えたのではと、大きな瞳が揺れる。
けれど、目の前の瞳は揺らぐことはなく、聞き間違いなんかじゃないと伝えている。
「今……なんて?」
だから、ただ目を見開いて、意味がわからないと、首を振って相手を見返すことしかできなかった。
今し方聞いたことを忘れてしまおうとしても、彼は同じ言葉を繰り返すために、再び口を開いてしまう。
「――好きだ」
目の前が真っ暗になった気がした。
信じてた。友達だと思ってた。
その言葉の意味を知るには、まだ、少年は幼すぎたのだ。自分の気持ちに目を向けようともせずに、彼が裏切り者だと決めつけて。
見上げるほど高い位置にある、彼の横顔を見るのが大好きだった。自分にはない、男らしい顔つき。
誰よりも信じていたのに……。友人と呼ぶよりも、兄のような存在で。だから、突然の告白はショックだったのだ。
恋心を自覚した今となっては、彼の背中を見送ることしか、許されていないけれど――……。