ダーリン

□抱きしめてダーリン
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「隙あり!」
「えっ、ちょっ……それ俺のだってば! 返せよバカ!」
 裕がムキになればなるほど、友人たちはエスカレートしていく。
 からかわれるのが嫌なら、もう少し大人になればいいと周りは思うかもしれないが、だからこその魅力だ。裕がなんの反応もしなくなれば、みんな見向きもしなくなるだろう。
「ああ〜っ!」
 奪い返そうとしたそれを、長身でがたいのいい尾山にかわされ、パクリと口の中に放り込まれた裕は、不満のため息をもらす。
 まさに今、銀紙からむいたばかりのチョコレートを尾山に奪われた。帰りに食べようと思って大事に取っておいた、最後の一粒だったのに。
「これでよけりゃ返してやるぜ」
「なっ……!?」
 べーと突き出された舌に、裕は絶句する。
 一度口に入れられたチョコは、尾山の舌の上で溶け始めていた。
「うぅ〜……」
 それに惹かれないわけではないが、そんなばっちいもん食えない。諦めるしかないと、裕は肩を落とす。
 悔しさに滲む涙をこらえていると、励ますようにポンポンと背中を叩かれた。
「泣くなって。帰りになんか奢ってやるから」
 振り返ったら、多少ナルシスト気味の武田が、笑顔でウインクをよこした。
 一瞬うるっときてしまった裕だが、何回この手に騙されたことか。
「タケちん……そう言って俺を騙すんだ」
「まさか。ダチを疑うなんてひでーな」
「ご、ごめん」
 もう騙されるもんかと覚悟しても、寂しそうな顔をされてしまうと、とっさに謝ってしまう。武田の思うつぼだ。
「悪いと思うなら、今日付き合えよ」
「えっと……用事あるから今日はダメ」
「はあっ!?」
「なんだと!?」
 今日は室井と約束している。しかも、家に遊びに行くのだ。
 前々からハムスターを見においでと言われていたが、室井が忙しくてなかなかその日は訪れなかった。やっと今日その日が来たのだ。
 無意識にヘラッと顔を緩ませると、友人二人は怒ったように同時に声を荒げた。
「なんの用だよ?」
「いや……」
「俺たちより大事な用なのか?」
「まさかデートとか言うなよ?」
「うっ……」
 問い詰められると、図星だと、裕の顔が真っ赤になる。
 コロコロとよく変わる表情。喜怒哀楽のはっきりしたその性格は、嘘をつけないのが最大の欠点だ。
「マジかよ。夏目のくせに生意気だぞ!」
「絶対に行かせねえからな!」
 いきなり豹変した二人の態度に戸惑うが、裕が室井との約束を蹴るわけがない。
「じゃ、じゃあ……急ぐから」
 こっそり抜け出そうという目論見は、あっさり打ち消されてしまう。
「ぐえっ!」
 襟首を引っ張られ、裕の意識は一瞬遠のく。
「な、なにすんだよ! 殺す気か!」
 危なく三途の川を渡るところだった。室井に会うまでは、絶対に死ぬわけにはいかない。
「つか、おまえ……痕増えてる」
「あと?」
「キスマーク」
「ひぇっ!」
 ネクタイを二人がかりで奪われ、ワイシャツも引っ張られてボタンが一つ飛ぶ。


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