ダーリン
□振り向いてダーリン
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「おい、夏目……おまえやべーよ」
「うわっ、マジだ。なんでいつもあんだけ食ってんのに……どうなってんだ?」
「し、知るか! 返せよバカ!」
昼休み、コンビニで買って来たパンをかじろうとしてた夏目裕は、友人たちに自分の机から勝手に引っ張り出されたそれに気づいて、クリンとした大きな目をさらに大きくした。
後期になってからやった身体測定の記録が、今日返ってきたのだ。裕の通う高校では、前期と後期の二回行われている。隠していたそれは、なぜか今友人の手の中にあった。
気づいた時には時すでに遅し。奪い返そうと思っても、その中身はバッチリ見られてしまった後だった。
「身長は1センチしか伸びてない? なのに体重2キロも減ってるじゃねえか」
「おいおい……腹ん中にサナダ虫でも飼ってんのか?」
前回と比べても残念な結果しか残ってないそれを見て、二人の友人は憐れみの眼差しを裕に向けてくる。
身長――163センチ
体重――45キロ
言わずもがな、育ち盛りの高校一年生にしては可哀想な結果である。
「んなもん、飼ってるわけないだろ!」
憤慨する裕の腹が、タイミングよくか悪くか、ぐぅ〜っと鳴る。
「ってー、腹の虫飼ってんじゃねえか!」
「すんげー音だな」
途端、腹を抱えて爆笑し始める二人に、裕は顔を真っ赤にしてきつい眼差しを送った。
身長が低くてからかいやすいその幼い性格は、みんなから愛されている代わりに、完全にいじられキャラとして扱われていた。
二人の友人も裕が可愛くて、ついちょっかいをかけてしまうのだが、裕にしたらいい迷惑だ。迫力はないとわかっていながら、裕は二人を睨み続ける。
「もーらい」
「ああっ!」
しかし、反抗的な態度を見せたばかりに、生意気だと、むきたてのあんパンを一口奪われてしまった。
一口と言っても、体育会系の友人、尾山のデカい口だとあんパンの半分は抉られ、無惨な形のパンの欠片が残されただけだった。
しかも、あんこがタップリ詰まった方を食われた。裕の手元には、スカスカのパンの部分しかない。みるみるうちに裕のテンションが急降下していく。
「ぐずぐずしてっから悪いんだろー」
尾山は勝ち誇ったドヤ顔で、唇をペロリと舐める。
「うぅ〜……」
人をノロマの亀みたいに言いやがって。こう見えて、走るのはこの中では一番裕が速いんだ。ただ、競争時は必ず転んじゃうからビリになってしまうが。
「これくらいで泣くなって。特別に俺の買ったやつ二個やるから。元気だせよ。なっ?」
うるうると涙目になって恨めしげに尾山を見つめていると、チャラ男タイプの武田が二人の間に入ってきた。
「タケちん……」
なんて慈悲深い友人なんだ……と思ったのは、ほんの一瞬だ。
「ただし貸しな。倍返しにしろよ」
「なっ……!?」
優しいと見せかけた武田の手口にまんまと引っかかった裕は、浮上しかけた気分をまた急降下させる。
まあ、こんなもんだ。いつものことだ。だけどパンに罪はない。これはありがたくいただいておこう。
今度は取られまいと服の中にパンを隠していると、裕から興味を失った二人は、窓の外の光景を見ながら、あーでもないこーでもないと話し始めた。