Do you〜?

8話
2ページ/3ページ

 





 ていうか、こんなのただの嫌がらせだ。




(ふざけんなっ!)




 なんだよ。オレがなにしたって言うんだよ?



 確かにこないだは、少しばかり言い過ぎたかもしれない。



 だけどあれくらいハッキリ言わなきゃ、てめーみたいな自分勝手の塊には通用しないだろ!



 ひとを傷つけて、楽しい気持ちになんかなれるかよ……くそっ。




「あっ、待って。どこへ行くんだい? いまから授業が始まるよ?」




「うるせえ! ついてくんじゃねえよ!」




 教室を出て行こうとオレは変態野郎に背を向けた。



 いままでオレを空気扱いしていた連中が、ほんのわずかに反応する。



 オレみたいなのが“阿久津讓”と話してるなんて、認めたくないんだよな。



 自分たちは相手にもされないのに、オレばかり構われてるのが信じられないんだろ。



 オレだって、こんなやつと話したくて話してるんじゃない。



 好きでこいつといるわけじゃないんだ。



 不愉快な視線送ってきてんじゃねえよ。



 オレはここにはいないんだ。空気だよ空気。それでいいじゃないか。







 オレは教室を飛び出して、廊下を走ってそのまま階段に向かった。



 べつに行き先を決めていたわけではない。ただなんとなく、勢いで階段を駆け降りる。



 それは、気持ちが下に向いていたから、無意識にとった行動だったのかもしれない。
 



「結城!」




 階段の踊場まで降りたところで、後ろからだれかに引き止められた。



 一瞬やつかと思いビクッと振り返るが、そこにいたのは筒井だった。




「きっつ……結城、おまえ足速いな」




 黙ってその場で見上げていたら、筒井がオレに追いつく。




「……なに? 連れ戻しにきたの?」




 いまはほっといてほしい。



 だれかとまともに会話できる心理状態じゃないんだ。




「授業出なきゃまずいだろ? オレのことはいいから教室戻れよ」




「いや……」




 前屈みで手を膝の上に置いた状態で、呼吸を整えていた筒井は汗を拭ってから顔を上げた。




「ほっとけるわけ、ないだろ? そんなつらそうな顔……見せられたら」




 つらそうな顔? まさかオレが?



 腹は立てているが、つらいことなんてなにもない。



 大丈夫。オレはうまくやっていけるんだ。心配ご無用だ。



 まったく、おかしなこと言うんじゃねえよ。




「好きなんだ」




 混乱する頭に、さらに混乱する言葉を投げつけられた。




「は?」




「俺とつきあってくれないか? 結城の一番近くに行きたい」




「なに言って……」




 正面で筒井と向き合うと、真剣すぎる眼差しを向けられてオレは動揺してしまう。




「ふざけてる、だけだよな?」




「違う。ふざけてるわけじゃない。俺は結城が好きなんだよ」




 男に告白されるのは初めてじゃない。



 けれどいまは信じられない気持ちのほうが大きい。



 そもそも、いまのこの姿のオレを好きになる人間がいるなんてこと、想像すらしてなかったことだ。









 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ