Do you〜?

7話
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「あっ、やば……忘れ物したから、悪いけど先行ってて」




 ペンケースを忘れてきたのに気づき、オレは足を止めた。



 もともとオレは忘れ物をするような性格じゃないのに、あいつのせいで注意散漫になってるみたいだ。



 まったく、見られてなくても忌々しい存在だ。




「そっか、わかった」




「じゃあ先行くねー」




 ふたりに笑顔で見送られ、オレは身を翻した。



 まだ時間はあるが、急ぐに越したことはない。



 筒井と戸村と別れたオレは、小走りで教室まで向かおうとしていたのだが、途中でそれを阻む者が現れた。




「……――っ」




 知らない間に背後をとられていたオレは、何者かによって羽交い締めにされる。



 そのまま動けないように腕で拘束され、だれもいない教室に引きずり込まれた。



 オレは死に物狂いで暴れるまくるが、押さえつけてくる力が強すぎて、逃れることができない。



 ありえない……



 最悪だ……



 どうなってんだよ……




(この変態くそ野郎!)




 こんな馬鹿力、考えられる人間はあいつ以外ほかにいない。




「離せよっ! なんのつもりだよ!」




 オレが怒鳴ると、ようやく拘束を解いて正面に向き直った。



 言うまでもなく、やはり犯人の正体は変態マッチョ野郎だった。




「おい、なにして……」
 



 頬を両手で挟み込まれたと同時に、悲しみに揺れる瞳がオレに近づいてくる。



 どういうわけか、オレはただ黙ってその様子を眺めていた。




「Please don't smile at others」




「は? それどういう意味だよ?」




「I want to see your smile. Your smile makes me happy」




 オレが眉を寄せるのにも構わず、マッチョはさらに言い募ってくる。



 マジでこいつ、なに言ってんだ? 頭わいてんじゃないのか? いかれてんのにもほどがあるだろ。



 なんでおまえがそんなに泣きそうな顔してんだよ。




(ふざけんなっ! 泣きたいのはこっちだ!)




 なんなんだよ。わけわかんねえよ。



 オレは理解したくないと、拒絶する意味も込めて首を横に振る。



 途端に寂しげだった瞳は燃え上がり、カッと瞳孔が開いた。




『――僕には君が必要なんだ。どうしてそれをわかってくれないんだ? 君は逃げてばかりいて、僕のことをまったく見てくれないじゃないか! 僕はこんなにも君のことを想っているのに!』



「……っ」


 ものすごい早口の英語でまくし立てられ、オレはただ圧倒されたように動けなくなる。



 身勝手すぎる言い分じゃないか。



 オレがそれを聞いてやる理由なんて、鞄の中も机の中もどこを探したって見つからないはずだ。









 
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