Do you〜?

6話
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「ところで、ノッチんちは? うちはパチ屋やってんの。成金上等! タマでジャンジャン稼がせてもらってますよー!」




 戸村は誇らしげに言って、ドンと胸を叩く。



 他者の目などまったく気にしない、己を貫けるだけの強さ。それを戸村は持っている。



 このぶれのなさは、本当にすごいと思う。



 真似したいとか、こうなりたいとは思わないけど、少しだけ尊敬してしまう。




(オレとは正反対だ)




 そうやって生きていけることを羨ましいと思うよりも、自分の弱さを痛感して惨めな気持ちになってくる。




「もしかして、ノッチも御曹司だったりしてー」




「うちの父親は音楽関係で……そんな金持ちとかじゃないよ」




「そうなんだ。結城っていったらだれだろー? 指揮者の結城孝明……って、もう百歳近いじいさんか」




 探そうとしなくていいから。



 うちの両親は夫婦別姓だし、本名を出してるわけじゃないから、絶対にバレることはないだろうけど。



 バレたところでべつに騒がれたりはしないだろうが、それでオレの本当の姿が露呈してしまうのは困る。



 せっかくここまでうまくやってきたんだ。



 いまさら後には退けない。





「ちなみにあいつんちは歯医者さんで、うちのすぐ近所にあるんだー」




「あいつって?」




「トッキーだよ。幼なじみだって言ったじゃん。昔話してあげよっか?」




 いや、


 べつにオレ、トッキーの情報なんて求めてないんだけど。



 他人の昔話に興味もないし。
 


「――だからトッキーはよせって」




 噂をすれば……



 苦笑を浮かべて、筒井までが姿を現した。



 なんなんだよ。みんな暇なのか?



 戸村はまだ体操服姿だが、筒井は制服に着替えていた。



 時間を考えたら、着替えてすぐにここに向かったのだろう。



 やっぱり暇なんだな。オレも苦笑しとくか。




「結城くん、ケガしたとこ大丈夫?」




 暇人が心配そうにオレの顔を覗き込んでくる。




「捻っただけだから」




 こうしてじっとひとの顔を見るのは癖なんだろうか。



 なんだか心を見透かされそうで、あんまりいい気はしない。




「そんな他人行儀なー。ノッチでいいって」




 いや、おまえが言うなよ。



 そんなあだ名、断固として拒否だ。




「だったら、乃亜でいいか?」




 筒井はなぜか照れたようにはにかみ、尋ねてきた。



 なんでそうくるんだ。



 ただのクラスメート相手に、わざわざ下の名前なんかで呼ぶ必要はないはずだ。



 そもそもそんな親しげに呼ばれても、どうせ話す機会なんてほとんどないんだから。




(まったく……)




 戸村の言うことなんて無視しとけばいいのに。




「いや、結城って呼んでくれればいいよ」




 こう言えば、押しの弱い人間はもう退くしかないはずだ。



 だれとも親しくなるつもりはないんだ。



 わざわざ嫌な思いしてまで踏み込んでくる理由はない。




「ああ、わかった。じゃあそうする」




 ちょっとだけ拗ねたように、むくれた顔で筒井は頷いた。




(なんだよ?)








 
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