Do you〜?
□4話
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【恐怖のお姫様抱っこ】
「はぁ……」
これで本日何度目のため息になるだろうか。
かなり気が重い。
母親の『ため息ついたら幸せ逃げちゃうわよ』って声が聞こえてきそうだ。
前日に丸一日をつぶして、身体測定を終えたばかりだった。
あいつの存在も相変わらず憂鬱の原因だが。
今日は運動適性テストがあるのだ。
国で定められているものではなく、学校独自でデータをとっていて、これは毎年全学年の生徒が全員、受けなければならない。
当然、単位にもかかわってくるからサボるわけにもいかず、オレはまたため息をつく。
かなりダルい。
というより、すごく神経使うからやなんだ。
(とりあえず真剣に適当にやるかー)
種目は五つだ。短距離と持久走、幅跳びと高跳びに、ボール投げ。
100mは流しすぎて15秒弱のタイムになってしまったが、それでも許容範囲内だ。
その点1500mは周りに合わせられたから、比較的楽だった。
ハンドボール投げも、走り高跳びもまあなんとかクリアだ。
どれも平均的なタイムや記録だろう。
(やべ……っ)
しかし、油断してたオレにそれは突然襲いかかってきた。
オレにとって陸上競技とは、身体に濃厚に染みついたもの。
いい記録を出すことより、へたに力を抜くほうが難しいことだ。
真面目にやらないからへそを曲げたのか。
いや、逆だ――
(この踏み込みだと、距離が伸びすぎる!)
陸上の神様はまだオレのことを愛し続け、自分のもとへ引き戻そうとしているのだろう。
(悪いけど、オレは絶対に戻らない……!)
わざと体勢を崩し、オレは不様に土の上に転がる。
「――……っ」
むちゃな動きをしたせいで、足首をおかしな方向に捻ってしまった。
ズキッ――
立ち上がることができないほどの激痛が、足首から脳天にまで突き抜けていく。
クスクスと、女子たちが痛みに耐えるオレを見て笑う。
「大丈夫か?」
土まみれになって蹲ってるオレに、後方で順番を待っていた筒井が声をかけてきた。
オレが平気だと答える前に、クスクスが突然ざわめきに変わった。
(どうしたんだ?)
ドドドドドドドド
(な、なんだよ?)
オレに向かって、ものすごい勢いで走ってくる影がある。
そのフォームは、海外の陸上選手のもののように美しい。
それにめちゃくちゃ速い。
これだったら、高校生の短距離の記録を打ち破ることができるかもしれない。
自分の意思とは無関係に、その走りに心奪われていた。