Do you〜?
□1話
1ページ/2ページ
【どこかで見た男】
朝起きたらまずは顔を洗って歯を磨く。
コンタクトレンズを入れて、それから黒縁の眼鏡をかける。
まっすぐで癖のないサラサラな髪は、わざと寝癖がついたようにワックスでくしゃっとさせた。
そろそろ生え際の色がやばそうだ。
カラーリング剤の買い置きはもうなかったか。学校の帰りにでも買ってこなければ。
さて、こんなとこでいいか。これでいつもの変装が完了だ。
今日からオレは高校二年生になる。
今年も平穏な一年でありますようにと、神様にひたすら祈るしかない。
「おはよう、母さん。今日は目玉焼きにして」
「おはよう……やっぱり今年もその姿でいくつもりなのね」
「もちろん、当然だろ」
「せっかく美少年に産んであげたのに……はい、今焼くからちょっと待ってなさい」
すぐに出てきたトーストを頬張る。
珈琲はやっぱりブラックに限るな。
「あっ、髪染め買うから千円ちょうだい」
「いいけど、そんな頻繁にしてたら髪の毛傷んじゃうわよ?」
「だけど黒くしないと周りからいろいろ言われるから」
「でもねぇ……」
まったく、いちいちうるさいんだよな。毎度のことなんだから、そろそろ慣れてくれないかな。
一年間はなんとか平和に過ごせたけど、まだ気は抜けないのだ。
この平穏無事な生活が守れるなら――
友人も、
恋人も、
賛美の声も、
憧憬の眼差しも、なにもいらない。
本当に、オレはなにもいらないんだ。