恋愛ゲーム

□『リクエスト』
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「高橋君っ!」

「王子、どこ行ってたんだよ」

 どうやら食べられてはいなかったようだが、代わりに、なぜか高橋君は女の子たちに責められていた。

「あっ、やっと戻って来た」

「もう帰るって、どういうこと?」

 ああ、なんだ。ちゃんと言ってくれたんだ。ほんとに僕って、小さい男だよな。

「僕たち、色々忙しいんだ。ごめんね。あと、ユウカちゃん迎えに行ってあげてね」

 世間で言う王子スマイルなるものを向けてあげたら、女の子たちは一瞬でフリーズした。
 その隙に、僕は高橋君の腕を引いて、その場をあとにした。


「王子、珍しく男らしかったじゃん?」

「高橋君には負けるよ」

 ずるいと思ったけど、ユウカちゃんとのことは秘密にしておこう。
 高橋君だって、ふたりの関係バラしたこと、知られたくないだろうし。

「――響」

「は、はいっ!?」

 ビックリした。なんで急に名前?

「ユウカちゃんが、『王子』『高橋君』って呼び合うのいいねって言ったんだ」

「う、うん」

「おまえは名前で呼ばれたがるけど、本当はどっちがいい?」

 そんなの、答えは簡単だよ。

「高橋君になら、なんて呼ばれても嬉しいよ」

「あっそ。つーか、おまえ、海でずいぶん女の子の視線集めてたよな、マッスル君」

「ええっ!?」

 それは違うような……でも、懐かしいね。
 あの頃高橋君が見てた未来は、今ここにあるかな? だったらいいな。
 別荘に向かいながら、僕たちはこっそり手を繋いで歩いた。
 


「ふぅ……これで落ちつけるね」

「落ちつくか、ボケ!」

 やっと着いたと思ったのに、高橋君はなぜか不機嫌だ。

「ずっと我慢してたけど言わせてもらう。ホテルかよ! なんで玄関だけでロビーみたく広いんだよ! ムダだムダ!」

「僕に言われても……」

 父親の趣味だ。どうしようもない。
 それに、僕だけが利用してるわけじゃないし。

「まあ、部屋に入っちゃえば、気にならないでしょ?」

「部屋もだ!」

「でも……」

「あら、なにか揉めてるの?」

 突然、高橋君以外の声が聞こえて、僕は慌てて振り返る。
 するとそこには、思いもよらない人物が……。

「姉さん。いらしてたんですか?」

「響が来てるって聞たから、飛んできたのよ」

 ああ、そういえばヘリポートあったんだ。
 僕もヘリで来ればよかった……じゃなくて。

「僕に、なにかご用ですか?」

「用がなきゃ弟に会っちゃいけないの? それより、お友達? 珍しいこともあるわね」

 姉さんの視線が、高橋君に向けられる。

「どうも、高橋です。つか、やっぱり姉ちゃんも綺麗なんだ。ビビった。姫っていうか、女王様って感じ?」

「あら、いい子ね。初めまして。響の姉の薫子です」

 ふたりは僕に構わず握手をしている。
 高橋君、女王様って褒めてるの? それ、喜ぶところ?

「ふふ、ゆっくりお話しましょう」

 じゃなく、お願いだから高橋君に近づかないでくれ。
 どうやらふたりは気が合ったみたいで、楽しくお茶を飲みながら話し始めてしまった。
 高橋君が僕にとってのなんなのか、ちゃんと教えなければいけないだろう。

「姉さん、僕は高橋君とお付き合いしてます。別れる予定は一生ありません」

「そう」

 姉さんはチラッと僕を見ただけで、すぐに高橋君に向き直ってしまう。
 そのあまりの反応の薄さに、僕は戸惑う。

「あの……反対しないんですか?」

「してほしいの?」

「まさかっ!」

「べつに子供じゃないんだから、いちいち口出しなんてしないわよ。結婚さえしてくれれば、誰と何人と付き合ってもいいわよ」

「それって……」

 結果は認めてないのと同じじゃないか。
 それなりの家に育ったんだ。ある程度の覚悟はしてるけど、それだけは聞けない。

「結婚はしません。僕は高橋君と一生一緒にいます」

「あら、そう。困ったわね。高橋君、あなたはどう思う?」

 これは僕の問題だ。高橋君まで巻き込むのはやめてくれ。

「あー? そんなの、その時になんなきゃわかんねーよ。結婚? 別れる気はねえけど、しなきゃダメかもな」

「……っ!」

 適当に返した高橋君の言葉は、それでも僕の胸を抉った。
 姉さんは満足そうに頷いている。

(どうして……?)

 なんでそんなこと言うんだよ。
 わかっていたさ。いつかこんな日が訪れるってこと。だけど、それってあんまりだ。
 
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