恋愛ゲーム
□『リクエスト』
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「俺たちがダメなら、今度はユウカちゃんが男紹介しなきゃなんなかったんだよ。あの子、そういうの苦手だから」
初対面だったくせに、高橋君はその子を庇うようにそんなことを言ってきた。
「悪かったって。ある程度つき合って、適当に抜ければいいだろ」
さすがに僕の怒りを察したのか、高橋君は謝ってきたけど、それで許せるはずがない。
君は平気なのか? 僕が女の子と、どうなっても。
「いいよ。わかった」
ユウカちゃんね。きっと、僕がユウカちゃんだけ構ってたら、他の子にハブかれちゃうよね。
でもしかたない。僕の高橋君に近づいた罪は重いんだから。
「サンキュー王子! なあ、どうせなら浴衣とか甚平とかねぇの?」
「ゆ、浴衣っ!? た、た、高橋君が着るの?」
「おう、おまえもなー」
ああっ、想像しただけで鼻血出そう。
でも、浴衣なんて用意してない。
(自分のバカっ! 自分のバカっ!)
もう、頭ぶつけて死んでしまえっ!
壁に頭を叩きつけていたら、慌てて高橋君が止めに入ってきた。
「王子!? なにしてんだよ。大事な顔に傷つくだろー」
「顔なんてどうでもいいよ」
「俺がやなんだよ。ったく、キモい男だなー」
そう言うと、高橋君は少し赤くなった僕の額を撫でてくれた。
決心が鈍りそうだよ。でも、君は僕だけのものだからね。大好きだよ、高橋君。
屋台にしては豪華な食材が並び、金魚の代わりに熱帯魚。
高橋君の顔が、わずかに引きつる。
(まあ、ここじゃしかたないけど……)
女の子たちは、こぞってど派手な浴衣姿で現れた。
帯にビラビラとか宝石とかつけ、髪型なんかすごいモリモリになっている。
「おっ、ユウカちゃん似合うじゃん」
「おばあ様の形見だから……ちょっと地味じゃないかな?」
「全然。俺は日本美人って感じで好きだよ」
く、くっそー。どこまで男のツボを心得てるんだ、この子は。
ひとりだけ、正当で地味な紺の浴衣を身に纏った彼女。僕自身、この中だったら……と、不埒なことを考えてしまう。
「家来君とユウカってばいい感じー」
「さっ、私たちも楽しみましょう」
「……あっ」
三人の女の子に挟まれて、僕は高橋君から引き離されてしまった。
――チクン。
振り返ったら、高橋君はユウカちゃんと楽しそうに話していた。
僕のことなんて見ていない。疑いたくない。でも、ドロドロとした負の感情が溢れ出してくる。
「私の家は――」
「この前、ハワイの別荘で――」
楽しくないよ。高橋君がいなきゃ、こんな世界に興味はない。
今頃、あの子となにしてるの? 僕のこと、忘れたりなんかしてないよね?
一歩、前に足を進めるたび、僕はおぞましいほどの嫉妬心に、足元を掬われそうになっていた。
「ごめん。ちょっと、連絡しなきゃいけないとこあるから」
タイミングを見計らって、僕は女の子たちから逃げ出した。
人混みをかき分けて、高橋君の姿を探す。
「ユウカちゃん……高橋君は?」
けれど、見つけられたのは彼女だけだった。
花壇の縁に腰掛け、ぼんやりしている。
「……王子さん。和人君なら、みんなを探しに行きましたよ」
「そうなんだ」
チャンスだと思った。
ユウカちゃんは、下駄で足を痛めて動けないみたいだ。
「王子さんはないよ。響でいい。それより、ふたりでどっか行かない? 後で靴買ってあげるよ」
「あっ……」
甘い顔で誘惑すると、ユウカちゃんは驚いたように目を見開いてきた。
すぐに食いついて来ない辺り、育ちのよさを感じる。
ならば余計、君はダメだ。高橋君にこれ以上近づいてほしくない。
「なに、言ってるんですか?」
「誘ってるんだけど?」
「ふざけないでくださいっ!」
こんな反応が返ってきたのは初めてで、僕もポカンと間抜けな表情を浮かべてしまう。
「王子さんは和人君と付き合ってるんでしょ? こんなことして……和人君に悪いと思わないんですか?」
「えっ……?」
「私、和人君にふられたんです。好きなやつがいるからって。王子さんと付き合ってるって」
どうして知ってるんだろうという顔をしたら、ユウカちゃんはつらそうにそう答えた。
(高橋君が?)
モラルを大事にする高橋君が、自分からそんなことを言ったのか。
信じられないけど、嬉しくておかしくなりそうだ。
「早く行かなきゃ、和人君、あの子たちに食べられちゃいますよ」
「あっ……ごめんね」
僕はユウカちゃんに深く頭を下げると、一目散に駆け出していた。