恋愛ゲーム
□『Promise』
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【視線】※過去
――また見てる。
それを確認すると、俺は気だるげに、やつから空へと視線を流した。
あいつと出会った当時の俺は、毎日が楽しけりゃそれでいいような人間だった。
大学もまともに行かずに、単位はいつもギリギリ。目下出席日数と決闘中。
「高橋ー、今日のコンパ出る?」
「んっ? ああ、どうしよっかな。なんか気分乗んねー」
「珍しいな?」
「ほっとけ」
コンパが大好きなお年頃、俺を憂鬱な気分にさせている原因があった。
――視線。
理由がわからず、場所も時間も問わずに浴びせ続けられるそれに、俺は頭がおかしくなりそうだった。
(……ほらまた)
野郎、俺をノイローゼにさせる気か?
女の子のだったら大歓迎なのに、悲しいかな相手は男。それもここら辺じゃあ結構な有名人だ。
チッ……見返してやったら、目ぇ逸らされた。
そいつは、仲間うちで『王子』とあだ名をつけてるような超美形野郎。身長とセットの長い手足を持てあまし、白い肌が光り輝いている。
それになんつっても顔だ。色素の薄いアッシュ系の髪がかかった瞳は切れ長で髪と同じ色。それに合った形のいい眉。鼻筋は通ってて、薄い唇には色気までありやがる。
その王子が俺なんかになんの用?
考えんのめんどーだけど、奴の癇に障ることでもしたのかもな。
うん。怖ぇから関わらないようにしよう。
(……あっ)
と思ったのも束の間。突然、俺は王子と出くわしてしまったんだ。
綺麗な目ん玉の中に俺の姿が映し出されると、ちょっとだけ申し訳ない気分になる。
おっ、近くで見っとかなりデカい。俺が173だから……軽く180は越えている。
なんて思いながら、無意識にガン見してたみたいで、王子は目を泳がせながらいささかキョドり気味。
「あ、えっと」
「なに見てんだよ、喧嘩売ってんの?」
チンケな台詞を思わず吐きながら、俺は王子を睨みつける。
まあ、今見てんのは俺のほうだけど……女に聞かれてたら袋叩き決定だな。
「いい天気だね」
やつは地面を見つめながら、ポツリと一言。
「はぁ?」
今日の空はどんよりとうっとうしいくらいに雲だらけだ。もうじき梅雨入りなのに、どうすりゃあ、そんなことが言えるわけ?
眉目秀麗なやつの言うことはわからん。
つーか、しゃべってる時はこっち見ろっての。
「じゃあ……」
結局、王子は目を合わせることのないまま、静かに俺の前から立ち去った。
今思えば、これがあいつの精一杯の会話だったんだろうけどな。
けど、わかりにくすぎるよ。もっと普通にできないもんなのかね?
言ってもムダだから言わないけどー。
じぃぃー。
ほら、また見てる。しかも濃厚に。学部も違うのにご苦労なこった。
俺はそれに慣れることがないまま、逆に王子の視線を意識するようになっていた。
「知ってたかー、高橋。王子って、大富豪の孫なんだってよ」
「知るか!」
「しかもミスキャンパスふったらしいぜー」
(……いいご身分で)
意識したくなくても、否応なしに入ってくるやつの情報。
最近では、やつは本物の王子様だという噂まで入ってきてる。
バカらしい。マジでほっといてくれよ。俺は今が楽しけりゃあ、それだけでいいの!
わざわざ心ん中かき乱されたくない。
友人の前で平静さを装う俺の背後には、じわじわと波乱の嵐が近づこうとしていた。