恋愛ゲーム

□『俺と王子の日常生活』
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 《I am from―K》



 俺の故郷は、東北の某県。杜の都などと呼ばれる緑の多い街。
 そこそこ発展してる都市だと思ってたけど、上京して初めて自分がどんだけ田舎者か知ったね。



「王子はどこの出身だっけ?」

 人の横で読書なんてしてる、超絶美人(つっても男)に声をかけ、飲みかけのビールをテーブルの上に置く。

「知らなかったの?」

「……ド忘れ」

 不誠実だと責める視線が痛くて、さり気なーく目をそらした。

「あっ、思い出した」

「そう、よかっ……」

「キラキラ金星……じゃないって? なら、お城とかー?」

 王子は本を置くと、呆れたように指で目頭を押さえる。
 だってそうじゃん。王子様は城にいるもんだろう?

「それと高橋君、王子はなしの約束だろ?」

「メンゴメンゴ。てか、いちいちうるせんだよ。響はー」

 怒ってたくせに、名前呼んだだけで急に機嫌よくなってやんの。
 ったく、だっせー男だな。せっかく見た目は完璧なのにもったいねえ。

 大学入学のために上京してきて六年。こいつと付き合い出したのが四年前で、一緒に暮らし始めて一年か。
 王子なナリして凡人な俺を好きだとか言うあたり、まだこいつのことはよくわからん。
 まっ、恋人だからって相手のすべてを知りたいとか思わないけどー。
 むしろ、知ってたほうがおっかねえよな?

「なあ、王子ー。じゃなくて響ー」

「わざとやってない?」

「まさか」

 俺はわざと大げさに首をすくめてみせる。
 まあ、クセみたいなもんだな。知り合う前は、王子って呼んでたんだから、しかたないだろ?
 とか思ってたら、無言で睨まれた。
 あーあ、ウザいなー。でも、なんでわざとだってバレちゃったんだろ?

「もう、付き合ってからのほうが長いよ」

「だっけ?」

 知っているくせに嘯いて、俺はとぼけた顔をする。
 さすがに今度は響もシカト。

「……それよりなに?」

「なにってなに?」

「今呼んだだろ」

「呼んでねーし」

 名前を呼んだ自覚がなかった俺は、本気で首を傾げた。
 響が呼んだっつうなら呼んだんだろうけど、なに言おうとしたんだ?
 って、ただ呼びたかっただけなんじゃん、俺。

「君と話してると、僕のほうがおかしいような気がしてくる」

「とっくにおかしいじゃん」

「どこが?」

 俺のことが好きなとことかな。
 でも言ってやんない。そんなおまえを、俺も好きだから。
 今では、俺の心の故郷はこのマンション。そしておまえと一緒にいる時間。
 とかってー! 言ってみたけど、かなり恥ずかしいわっ!

「だけど、そんな高橋君が大好きだよ」

「……へぇー」

 てか、俺を上まわる恥ずかしいやつがここにいたな。

「ねえ、今度僕の故郷に遊びに行こうよ」

「んー」

 カラ返事。だけど内心はドッキドキだったりして。
 悪くねーかもな。おまえの生まれ故郷なら、きっと綺麗なとこなんだろう。ちょっとだけ、どんなとこかも気になるし。

「とりあえずヘリをチャーターするから、すぐにとはいかないけど」

「はっ!?」

「あれ、もしかしてヘリ苦手だった?」

 そういう問題じゃないだろ?
 はぁー。よく俺もこんなやつとずっと一緒にいれるよな。価値観違いすぎるから!
 生まれも育ちも身分さえも、まったく正反対な俺たち。それでも離れることは頭にないんだよ。

「どうせだから、二人きりがいいと思ったんだけど……」


 てか、これが“愛”ってやつなんですかね?
 バカバカしいけど、なんとなーく幸せだよ。まったく。




 
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