恋愛ゲーム
□『俺と王子の日常生活』
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《すごろく―K》
横になって深夜番組を見ていた俺は、思い立ったように起き上がった。
そしてやつの上に跨がると、読書のジャマに取りかかる。
「なあなあー王子、人生ゲームやろうぜ!」
「そんなものはないよ。高橋君」
ちなみにその番組では人間人生ゲームなるものをやっていて、巨大なステージでは、若手芸人たちが「結婚したー」とか「借金した!」とか言って一喜一憂している。
「俺、大富豪になる!」
「だからないって……すごろくならあるけど」
「はあ? 使えねーな」
てか、すごろくのほうがレアな気がするのは俺だけか?
やつは大きなため息をつくと、ブツブツ言いながらリビングを出ていってしまった。
ここは3LDKの賃貸マンション。俺とあいつの愛の巣。ってサブッ。
そう、あのキラキラした王子様みたいな男は、ただの同居人じゃなく、俺の恋人だったりするのだ。
二人とも毎日せっせと働いてるから、それなりの暮らしができているわけよ。
まっ、俺とやつの稼ぎは天と地ほどの差があるんだけどなー。
そもそもやつのジイさんが、デカイ会社の社長だか会長だかで、やつは跡継ぎとしての勉強中らしい。
でも七光りとか思うなよ? やつは大学で四年間ずっとトップの成績で終えた男だ。できのよさは、同じ大学だった俺が保証する。
ついでに言っとくと、俺は中小企業の平社員。成績は中の下。
「高橋君、持ってきたけどほんとにやるの?」
「あー」
よくよく考えたら、そんなにやりたいわけじゃない。
ただ、王子のことを差し置いて、大富豪とかになったら気分いいなー。なんてな。
それに、すごろくなんて『振り出しに戻る』ばっかでおもしろくないじゃん?
「てか、なにソレ!?」
金ピカだよ。ゴールド製のすごろくなんて初めて見た!
「えっ……お祖父様からの贈り物だけど?」
はあぁ?
「生まれた時から王子なら、最後はどこに行きつくんだろうな」
「僕は王子じゃないよ。君の恋人だ」
あんだって?
「ぷっ……くく……っ」
(んなの、真顔で言うなつーの)
「おかしくないよ」
「おかしいって」
あー、涙止まんね。俺を笑い死にさせる気か。
その台詞こそが王子様なんだって、気づかないもんかね?
顔真っ赤にして怒ってるとことか、サイコーだけど。
王子、知ってるか?
人生に上がりはない。スタートからのやり直しだってきかない。
数マス進んで、数マス戻る。ただそれのくり返し。
だけど、だから人生って楽しいんだ。おまえと一緒に笑ったり、泣いたり、大富豪になんて一生なれなくっても、俺はこのままでいい。このままがいいんだ。
「高橋君、笑いすぎ」
むくれるおまえを、心から愛しいと思う。
ほんと毎日楽しいよ。楽しくって楽しくって、つらいことあっても、すぐ忘れられる。
「すごろくはやめ。けど王子よ、俺と一緒に賽を振ってくれんかね?」
「はい?」
それは、この升目をおまえと一緒に進んでいるからなんだ。
「二人同時に上がる道を選ぼうぞ」
「うん――わかったよ」
王子は眩しいほどの笑みを浮かべると、俺の手に18金のサイコロを握らせた。
コロン
さて、このゲームはいつまで続くかな?