Rアール
□R番外編
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※最終話終了後〜過去の回想。リュークの心情。
【言葉にしなくても察しろよ】
腕の中のぬくもり。今ではそれがあるのが当たり前になっている。
それでも、たまに昔の自分の幻影にうなされる日もある。
けれど、こいつがいるから俺は――。
「んん……リューク様? こんな夜中にどうしたんですか?」
「なんでもない。いいからお前は寝ろ」
「は〜い。リューク様、愛してますよぉ……」
すぐまた眠りに入ったマナを見下ろし、内心舌打ちをした。
(よけい寝れなくなったじゃないか……)
今すぐ叩き起こして、自分のもので埋め尽くしてやろうか。
しかしそれを実行に移せなかったのは、マナの寝顔があまりに穏やかだったからだ。この顔をいつまでも見ていたい。柄にもなく、そんなことを思ってしまったのだ。
(マナ……)
お前と出逢えた奇跡。
運命なんてこれっぽっちも信じていなかったのに……。
出逢った瞬間、全身に鳥肌が立った。いるはずもない天使が目の前に降りてきたのだと思った。
自分にないものを全て兼ね備えた瞳。その場でめちゃくちゃにしてやりたい衝動。
小さな手がこの手を取ったあの日――奇跡のような運命が定まった。
俺は王になる定めの下に生まれた。自ら望んだものではなかったが、不満もなかった。
人の上に立つ。それが当たり前だと、そういう教育を受けてきた。
だからあいつと出逢うまでの俺は、不意に襲ってくる虚無感にも気づかないふりをして、虚勢を張って生きていたんだろう。
「陛下、例の暴動騒ぎの件ですが――」
王位継承第一位の兄が国を捨てたことで、やむなく俺が王の座に就くことになった。
しかしそれは簡単なものではなく、そこには大きな試練が用意されていたのだ。
国民による暴動。それを沈静化させるのが、王になって最初の仕事になった。
『あの子のせいで、お妃様がお亡くなりにられたんだわ』
皮肉なものだ。さんざんそう言われ続けてきた人間が、今では『陛下』として祭り上げられているんだから。
「聞いておられますか、陛下」
いや、こいつだけは違ったか。
執事のセバス――隙のない人間だ。そのくせ気づくと慈愛に満ちた瞳を向けてくるもんだから、どうにも落ち着かなくなる。
「聞こえてる。街に視察に行けばいいんだろ」
「陛下、口の利きかたにはお気をつけくださいませ」
「わかってる」
この時はまだ気づいていなかった。
すでに自分が、運命のレールの上を進み始めていたということに。