Rアール

□R番外編
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※最終話以降のお話。新妻マナの悩み。

【その後の二人】



「ほら、グズ……さっさと起きて、支度の手伝いをしろ」

 ようやく僕は正式にリューク様の傍にいられるようになった。新婚ラブラブ――そんな甘い生活を夢見ていたのだが……現実は考えるほど、そんなに甘くはない。

(グズって……ひどくない?)

 僕の部屋は取り壊されて、リューク様の部屋と繋げられた。つまり、僕は今リューク様と同じ部屋で生活するようになったのだ。
 リューク様の態度は相変わらずで、あの日以来は「愛してる」とも「好きだ」とも言ってくれていない。
 しかし僕には、それを寂しがっているだけの余裕はなかった。

「セバスがいなくなった分、仕事が増えたんだ。時間を無駄にするな」

「はい」

 セダイン様の結婚後、ダリアさんがリネイムに嫁いでくるまでの間、手伝いをしていてくれたセバスさんだったが、落ち着いたところで故郷に帰ってしまったのだ。
 後を負うようにマリアさんも辞めてしまって、現在城は人手不足な状態だった。

「あいつらは使えないからな」

 あいつらとはセダイン様とダリアさんのことだろう。二人は今まさに新婚ラブラブで、まだ仕事どころではない様子。
 正直、一番被害を受けたのはこの僕だ。リューク様の身の回りの世話以外の仕事は減らされる予定だったのに、現状はそうはいかない。
 この日も朝からピリピリするリューク様に、僕は気を使って疲れるばかりだった。
 




「おい――紅茶」

「はい」

 仕事から戻るなり、リューク様は不機嫌さを隠しもせずに、命令口調でそう告げてきた。
 そしてドカッとソファーに腰掛けて、長い脚を床に投げ出す。
 あまり褒められた態度ではないが、僕はリューク様の機嫌がこれ以上悪くならないようにおとなしく紅茶の用意をする。

(はあ……今度は“おい”か……)

 結婚をすると、男性は奥さんのことを名前で呼ばなくなるという。僕も男だけど、名前を呼ばれないのはつらい。

「おい、今日のお前の態度はなんだ? 大臣達に愛想ばっか振りまいて」

「……すみません」

 ひどい言いがかりではあるが、僕は従順に頭を下げてリューク様に紅茶の入ったカップを渡す。
 カリカリしているみたいだから、今日は少しだけ砂糖を入れてみたのだが……。

「お前は仕事さえちゃんとやってれば、それでいい。余計なことは……」

 紅茶を一口含むと、リューク様は突然黙ってしまう。

「甘いですか? お口に合わないようでしたら、すぐ取り替えますから」

 砂糖を入れたのがまずかったのだろうか。僕は慌ててリューク様のカップに手を伸ばした。

「あっ!」

 しかし、リューク様にその手を引かれて、そのまま僕はソファーに押し倒されてしまった。
 顔を上げると、真剣な眼差しとぶつかる。

「マナ……」

 ドクン――名前を呼ばれただけで胸が高鳴り、そして僕は、リューク様の穏やかな口づけを受けていた。
 
「んっ、ふ……」

 次第に口づけ深くなっていき、唇や舌を噛まれるけど痛くはない。

(甘い……)

 きっと、この甘さは紅茶だけが理由じゃないだろう。このキスには、ちゃんと愛が込められているから……。

「――お前の淹れる紅茶は、なによりも美味い」

「……え?」

 唇を離すと、リューク様は甘えたように僕の腰に腕を回してくる。
 僕は起き上がると、膝にリューク様の頭を乗せて静かに髪を梳いてあげた。

「マナ、お前は俺のだ。そうだろ?」

「もちろんです」

 子供みたいに嫉妬を剥き出しにしてくるリューク様が愛しくて、可愛いとさえ思う。
 自然と僕の口許にも笑みが浮かぶ。

「今日は、本当にお疲れ様でした。このまま少し眠ってください」

「ああ……俺はもう一人ではいられないからな。傍にいるのが、お前でよかった……」

「……っ」

 すごい殺し文句を吐いて、リューク様は僕の膝の上で寝息を立て始めてしまった。

「リューク様……愛してます……」

 この感情をなんと表現したらいいか、わからない。
 ただ、以前のような激しさや荒んだ感情は影を潜め、胸には暖かな感情だけが込み上げてくる。

「永遠に……」

 ずっとこの人は僕のものなのだ。なにがあっても、もう悲しむ必要はない。
 だから決して離れないように、きつく抱き合っていよう。
 そう、永遠に――。



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