Rアール
□R(5)
3ページ/57ページ
「よっ、マナ」
街に下り、待ち合わせ場所に着くと、ケントは既に先に来ていた。
「遅れてごめん」
僕は、最近めっきり男らしくなったケントに駆け寄る。
「別に。それより、犯人捕まってよかったな」
「うん」
「お前が無茶しないかって、実はヒヤヒヤしてたんだぜ」
まさか命を投げ出して犯人のアジトに潜入したとも言えず、僕は後ろめたさにうつむいた。
「そうだ、今日会う奴、かなり人見知り激しいけどあんま気にすんなよ」
実は今日、事件の手掛かりをくれた精神科にいたという子に、お礼をしに来たのだ。
人見知りが激しいと言うのに、仲良くなってしまうケントはさすがだと思う。
「懐かれてるんだ?」
「そうなるのか?」
茶化してケントを見上げると、少し照れたようにそっぽ向いてしまう。
なんだかそんなケントが可愛く思え、僕は密かに笑みを洩らした。
「マナ、ありがとうな」
「えっ?」
急に真面目な顔つきになったケントに、僕はその意味がわからず首を傾げる。
お礼をするのは、明らかに僕のほうだ。
「いや、まだちゃんと言ってなかったから」
ケントは今度はしっかり僕を向いて、頭を下げてきた。
ケントが城で働くようになったのは、僕ではなくリューク様の働きがあったからだ。
それでも、ケントは僕に感謝してると何度も頭を下げてくる。
「俺、正直お前が一番気掛かりだった」
その理由を話すようにケントは口を開いた。
「仲間内でも一番脆くて……いつか突然消えちまうんじゃないかってさ」
きっと、リューク様に拾われなかったらその通りになっていただろう。それでいいと、自分自身が思っていたから。
でも、まさかケントがそんなに心配してくれていたなんて、考えもしなかった。
「あの暴動があって、お前を気にしてる余裕もなくて……だけど、しばらくしてから城で働いてるって噂で聞いて」
ケントは話を続けるにつれ、次第に罪を打ち明けるかのように、声を震わせ始めた。
「お前の幸せ喜んでやる前に俺、裏切られた……とか思っちまって」
最初の再会を果たしたあの日の、険悪な態度には理由があったのだ。
けれど、僕はケントを恨む気はないし、そう思われてもしかたのないことをした自覚はある。
「お前は変わらず優しい奴だったのにな」
そしてケントは少年の名残を捨てた顔で、どこか寂しそうに微笑んだ。
このケントの潔さや、真っすぐな性格に、今までどれだけ助けられてきたのだろう。
これからも僕は、リューク様のためだけに生きるけど、周りの人達への感謝の気持ちを忘れずに行こうと誓った。
「着いたぜ」
しばらく無言で歩いてきた僕達が着いたのは、小さな施設だった。
ケントに情報をくれたその子は、精神科を退院して現在はここに預けられているらしい。
「先に挨拶して来る」
「あっ」
僕も行くつもりだったのに、ケントの姿は既になかった。この行動の速さがケントらしい。
僕は施設に入ると、周りを見渡す。かなり老朽化が進んでおり、災害が起きたら耐えられないだろう。
(リューク様に、建て直しの検討をしてもらわないと……)
どんなに国をよくしたいと望んでも、城にいるだけでは知り得ないこともあるのだと、改めて実感させられた。
「こんにちは」
僕はケントを待たず、その子を捜して教室らしき部屋に入る。
確か、ツバキ君という十二歳の男の子だと聞いている。
(あの子かな?)
すぐにどの子だかわかった。大勢の子供達が騒ぐ中、一人だけ窓際で本を読んでいる、ケントが気にかけそうな男の子。