Rアール

□R(5)
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「よっ、マナ」

 街に下り、待ち合わせ場所に着くと、ケントは既に先に来ていた。

「遅れてごめん」

 僕は、最近めっきり男らしくなったケントに駆け寄る。

「別に。それより、犯人捕まってよかったな」

「うん」

「お前が無茶しないかって、実はヒヤヒヤしてたんだぜ」

 まさか命を投げ出して犯人のアジトに潜入したとも言えず、僕は後ろめたさにうつむいた。

「そうだ、今日会う奴、かなり人見知り激しいけどあんま気にすんなよ」

 実は今日、事件の手掛かりをくれた精神科にいたという子に、お礼をしに来たのだ。
 人見知りが激しいと言うのに、仲良くなってしまうケントはさすがだと思う。

「懐かれてるんだ?」

「そうなるのか?」

 茶化してケントを見上げると、少し照れたようにそっぽ向いてしまう。
 なんだかそんなケントが可愛く思え、僕は密かに笑みを洩らした。

「マナ、ありがとうな」

「えっ?」

 急に真面目な顔つきになったケントに、僕はその意味がわからず首を傾げる。
 お礼をするのは、明らかに僕のほうだ。

「いや、まだちゃんと言ってなかったから」

 ケントは今度はしっかり僕を向いて、頭を下げてきた。
 ケントが城で働くようになったのは、僕ではなくリューク様の働きがあったからだ。
 それでも、ケントは僕に感謝してると何度も頭を下げてくる。

「俺、正直お前が一番気掛かりだった」

 その理由を話すようにケントは口を開いた。

「仲間内でも一番脆くて……いつか突然消えちまうんじゃないかってさ」

 きっと、リューク様に拾われなかったらその通りになっていただろう。それでいいと、自分自身が思っていたから。
 でも、まさかケントがそんなに心配してくれていたなんて、考えもしなかった。

「あの暴動があって、お前を気にしてる余裕もなくて……だけど、しばらくしてから城で働いてるって噂で聞いて」

 ケントは話を続けるにつれ、次第に罪を打ち明けるかのように、声を震わせ始めた。

「お前の幸せ喜んでやる前に俺、裏切られた……とか思っちまって」

 最初の再会を果たしたあの日の、険悪な態度には理由があったのだ。
 けれど、僕はケントを恨む気はないし、そう思われてもしかたのないことをした自覚はある。

「お前は変わらず優しい奴だったのにな」

 そしてケントは少年の名残を捨てた顔で、どこか寂しそうに微笑んだ。
 このケントの潔さや、真っすぐな性格に、今までどれだけ助けられてきたのだろう。
 これからも僕は、リューク様のためだけに生きるけど、周りの人達への感謝の気持ちを忘れずに行こうと誓った。



「着いたぜ」

 しばらく無言で歩いてきた僕達が着いたのは、小さな施設だった。
 ケントに情報をくれたその子は、精神科を退院して現在はここに預けられているらしい。

「先に挨拶して来る」

「あっ」

 僕も行くつもりだったのに、ケントの姿は既になかった。この行動の速さがケントらしい。
 僕は施設に入ると、周りを見渡す。かなり老朽化が進んでおり、災害が起きたら耐えられないだろう。

(リューク様に、建て直しの検討をしてもらわないと……)

 どんなに国をよくしたいと望んでも、城にいるだけでは知り得ないこともあるのだと、改めて実感させられた。

「こんにちは」

 僕はケントを待たず、その子を捜して教室らしき部屋に入る。
 確か、ツバキ君という十二歳の男の子だと聞いている。

(あの子かな?)

 すぐにどの子だかわかった。大勢の子供達が騒ぐ中、一人だけ窓際で本を読んでいる、ケントが気にかけそうな男の子。
 
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