Rアール
□R(4)
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31話.演奏会
「おい、マナ! なんとかしてくれ!」
焦ったような声で呼ばれ振り向くと、そこには足になにかを巻きつけたケントがこっちに向かっていた。
「あれ? ケント、まだ城にいたんだ」
ケントは主に丘の管理や、公共の広場での警備を任されているのだ。
「ああ、演奏会の手伝いが終わるまでな……じゃなくてっ!」
「あっ」
よく見れば、ケントの足にはミューがひしっとしがみついている。
「なんかメイドに意地悪されたみたいでよぉ〜」
困り切った顔で、ケントは続ける。
どうやら、廊下で泣いてるミューに声をかけたら、そのまま泣きつかれてしまったらしい。
「うわぁ〜ん! ボク、なにも悪いことしてないのに〜。ひどいよ〜!」
「わっ!」
ミューはケントから離れると、今度は僕に縋りついてきた。
(こんなことするのって……ニナさんしかいないよね?)
原因はわからないが、ミューが悪気なしにニナさんの逆鱗に触れてしまったというのは、容易に想像できた。
「おばちゃんって、言っただけなのに〜」
「なっ……!」
「おいおい、女にそれは禁句だろ」
僕が絶句して固まっていると、ケントは大袈裟にため息をついた。
それにしても、ケントがミューをあやす姿は微笑ましい。面倒見のいいケントだからこそ、ミューも懐いたのだろう。
「それに、ボクにはこの仕事無理だからって、辞めろって……急に泣き出すし……」
「……っ」
胸がズキッと軋む。ニナさんは僕を心配して、なにも言えない僕のために、涙まで流してくれたのだ。
「やっぱり……王様を好きになるなんて……本気になるなんて、バカだよね」
ミューが初めて見せる大人びた表情に、僕の胸は痛みを増す。
自分も同じだから。それが僕に言ってる言葉のような気がして。
(本気だなんて……とっくに手遅れだけど……)
出逢った瞬間から始まっていた。一目リューク様の姿をを見た時から、彼が僕の唯一の存在になっていた。
「おい、チビ」
今まで黙っていたケントが突如口を開き、真面目な顔をしてミューに語りかけた。
「愛多ければ憎しみ至るもんだろ? こんなことでメソメソしやがって、本気とかぬかすなよ」
厳しいケントの台詞に僕はハッと息を飲んだ。
「そんな覚悟じゃあ、王どころか、誰にも愛されないぜ?」
厳しさを生き抜いたケントだからこそ言える言葉に、僕はなにも言えなかった。
「意味わかんない!」
そう叫ぶと、ミューは走り去ってしまう。
しかしケントの言葉は理解したのだろう。最後は涙を見せなかった。
「あらら、言いすぎちゃったか?」
頭を掻きながら、ケントはミューの背中を暖かく見守っていた。
「それより、お前は大丈夫か?」
「……え?」
話を振られてドキッとしてしまう。
ケントが僕とリューク様の関係を知っている筈ないのに、見透かされていたのではと、勘繰ってしまう。
「エドの件。知らせは聞いていたけど、心配してた」
「ああ……」
そのことか。しかし突然思い出させられた恐怖の記憶に、一瞬身体が強張り、顔が引き攣ってしまう。
「あ、ごめん……やなこと思い出させたな」
慌てて謝るケントに、僕は首を振った。
「平気」
もう過去のことだ。まだ親の関係とか、解決してないこともあるけど、過ぎたことは変えられない。
「ケント、実はね……」
まだケントに話してなかったことを思い出し、親の生存やエドとの繋がりを話した。
「マジかよ」
ケントも始めは言葉を失っていたが、すぐに冷静さを取り戻す。
「俺も調べてみる。なんかわかったら連絡する」
そして、そう頼り甲斐のある言葉をかけてくれたのだ。